弁護ハック!-若手弁護士によるライフハックブログ

「弁護士 × ライフハック × 知的生産」をテーマに、若手弁護士が日々の”気付き”を綴ります。

ロジカル・シンキングはあらゆる仕事の基礎(第3 終わりに ~新人の皆さんに伝えておきたいこと~)

全体目次

第1 総論 ~弁護士という仕事について~
1 「仕事」とは何か?
2 弁護士が顧客に提供する「価値」とは何か?
3 期待に応える弁護士になるには

第2 各論 ~コアとなるスキル・マインド~
1 「代理人」としてのあり方
2 弁護士の面接技法
3 弁護士の交渉術
4 法律文書作成

第3 終わりに ~新人の皆さんに伝えておきたいこと~
1 仮説形成と仮説検証が何よりも大切
2 ロジカル・シンキングはあらゆる仕事の基礎
3 「何のために弁護士の仕事をするのか?」に対する回答を見つけてほしい

 

⑴ 5W1Hの問いかけを習慣とする

 次に、皆さんにはロジカル・シンキングがあらゆる仕事の基礎であることをお伝えしたい。なぜなら、現代の仕事のほとんどは多かれ少なかれ知識労働であるところ、知識労働においては物事を考え、何らかの問題を解決することが仕事だからである。すなわち、現代では「考える方法」を知らなければ、仕事自体が成り立たなくなっている。そして、言うまでもなく、ここでいう「考える方法」こそがロジカル・シンキングである。

 さて、ロジカル・シンキングの技術やフレームワーク(定型的な思考の枠組み)については、かなりの種類があるため、興味があれば参考書籍等を参照してもらいたい。しかし、限られた紙幅の中で皆さんのためにお伝えすることがあるとすれば、それは次の3つ、すなわち5W1Hの問いかけを習慣とすることSo what?の問いで突き詰めて考えること、そしてピラミッドストラクチャーとロジックツリーを常に頭に描くことである。

 

 まず、5W1Hの問いかけを習慣とすることとは、他人の話を聞いたり、文章を読んだり、あるいは自分が話をしたり、文章を書いたりする際に、頭の中に絶えず疑問文(「When:いつ」「Where:どこで」「Who:だれが」「What:何を」「Why:なぜ」「How:どのように」)を持ち、思考停止に陥らないようにするということである。そして、そのような習慣を持っていれば、事実の聴き取りに過不足がなくなるし、仮説にも疑問が少なくなるのである。

 なお、個人的に皆さんに特に重視してもらいたい問いは、Why:なぜ」である。例えば、皆さんが何か仕事を任された際には、まずその仕事の目的や理由を考える癖を付けてもらいたい。そして、その仕事の目的や理由を正確に理解することができれば、達成すべきクオリティを把握することができ、仕事に過不足がなくなるのである。また、場合によっては上司の指示する方法とは別の方法のほうがその仕事の目的を達成するために合理的であることがわかってくるのである。

 私の経験の範囲でいえば、「考える」とは結局、どのような問いを持つかということの裏返しであると考えている。そして、適切な問いを立てることさえできれば、大抵の場合、人はその問いを解決することができるのである。

 

⑵ So what?の問いで突き詰めて考える

 さて、5W1Hの問いかけを習慣とすることは、「考える」ことの基礎である。では、さらに進んで「深く考える」ために我々は何をすればよいのか?私は、その技術の一つがSo what?の問いを持つことであると考える。

 これはすなわち、仕事において何らかの結論を出した場合、その結論にSo what?(それで?)の問いをぶつけ、結論をとことん深めるのである。

 例えば、民事の交渉事件において、相手方の代理人弁護士から当方の依頼者に対して金銭を請求する通知書が届いたとする。その事件の主任である皆さんは、まず通知書が届いたことをボス弁や依頼者に報告する必要がある。ところが、その際、「こんな通知書が届きました。」と報告しているだけでは、主任としてちょっと心許ないと思ってしまう。

 そこで、So what?(それで?)が役立つことになる。

 すなわち、

 

「こんな通知書が届きました。」

                それで?

「内容は100万円の賠償金を

請求するものであり、その根拠は

依頼者が支払いを口頭で約束した

というものです。」

                それで?

「しかし、私は、相手方の主張する

根拠には理由がないと考えます。

なぜなら、相手方の主張する口頭の

約束というのは、申込み及び承諾に

は達していないと考えるためです。」

                それで?

「反論の書面を作成したので

決裁を下さい。」

                YES または NO    

 

 このように、So what?(それで?)を通じて結論を深めていくと、大抵の場合、最後は具体的な行動に行き着くことになる。そして、仕事において真に価値を持つ結論とは、具体的な行動に即座に結び付く結論なのである。

 なぜなら、ボス弁も依頼者も、弁護士である皆さんに対し、何らかの仕事を任せ、その仕事を通じて何らかの問題解決をしたいのである。そして、その際、具体的な行動をしてもらうのはもちろんのこと、その行動を考える作業を極力主任である皆さんに委ね、自分はその採否を判断する仕事に徹したいのである。

 皆さんからすれば、ボス弁や依頼者が楽を求めているように思われるかもしれないが、立ち止まって考えていただきたい。ボス弁や依頼者に楽をさせるというのは、皆さんが彼らに時間を生み出しているということであり、つまりは価値を生んでいるということである。そして、そのような弁護士になることは、ひいてはキャリア形成や顧客獲得の点で皆さん自身の利益になるはずである。

 

⑶ ピラミッドストラクチャーとロジックツリー

 最後に、ロジカル・シンキングのフレームワークの一つであるピラミッドストラクチャーとロジックツリーについて言及しておきたい。

 まず、基本的な概念について説明しておくと、ピラミッドストラクチャーとは、「4 法律文書作成」の項で解説した<図3>のような、結論と論拠(あるいは結論と説明)をピラミッド状に図式化したものである。これに対し、ロジックツリーとは、ある概念を分析するための図式であり、その用途に応じてWhyツリー(原因研究)、How ツリー(問題解決)、What ツリー(要素分解)などがある。

 ピラミッドストラクチャーとロジックツリーの具体的な活用法については、参考書籍等を参照してもらいたい。私がここで指摘しておきたいのは、皆さんが今後何かを話したり書いたりする際には、常にピラミッドストラクチャーやロジックツリーを頭に描いておいてもらいたいということである。

 仮に皆さんがそのようにできていれば、自ずと聞き手や読み手に理解しやすい話し方や文章の書き方ができるようになるのではないかと思う。例えば、刑事事件の弁論では、「被害者の推定死亡時刻当時の被告人のAさんの行動について説明します。まず・・・」といった話の切り出しよりも、「被告人のAさんは無罪です。その理由はAさんには明白なアリバイが成立するからです。これからAさんにアリバイが成立する理由を述べていきます。その理由は3つあります。まず・・・」といった話の切り出しのほうが理解しやすいのではないだろうか。言うまでもなく、そのような話の構成はピラミッドストラクチャーを意識している。

 また、皆さんが文章を書くとき、ロジックツリーを意識しつつ、それによって法律要件とその考慮要素を分析することができていれば、文章に書かなければならないことを見落とすことが少なくなると思う。

 このようにピラミッドストラクチャーとロジックツリー(ひいてはロジカル・シンキングそのもの)は、仕事におけるOS(オペレーティングシステム)のようなものである。そのため、必ず社会人一年目のできる限り早期に身に付けるようにしてもらいたい。

 

⑷ 参考書籍等

・照屋華子/岡田恵子『ロジカル・シンキング 論理的な思考と構成のスキル』

東洋経済新報社

・バーバラ・ミント『新版 考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(ダイヤモンド社

・大石哲之『コンサル一年目が学ぶこと』(ディスカヴァー・トゥエンティワン

ロジカルシンキングの武器②ピラミッドストラクチャー

https://youtu.be/zX5LyLqkl28