弁護ハック!-若手弁護士によるライフハックブログ

「弁護士 × ライフハック × 知的生産」をテーマに、若手弁護士が日々の”気付き”を綴ります。

法律文書作成(新人弁護士研修資料「第2 各論 ~コアとなるスキル・マインド~」)

全体目次

第1 総論 ~弁護士という仕事について~
1 「仕事」とは何か?
2 弁護士が顧客に提供する「価値」とは何か?
3 期待に応える弁護士になるには

第2 各論 ~コアとなるスキル・マインド~
1 「代理人」としてのあり方
2 弁護士の面接技法
3 弁護士の交渉術
4 法律文書作成

第3 終わりに ~新人の皆さんに伝えておきたいこと~
1 仮説形成と仮説検証が何よりも大切
2 ロジカル・シンキングはあらゆる仕事の基礎
3 「何のために弁護士の仕事をするのか?」に対する回答を見つけてほしい

 

⑴ ロジカルに書く≒ロジカルに考える

 民事訴訟の実務は、口頭主義と言いながらも、主張は事前に書面(準備書面)で準備することとなっており、期日において口頭でやり取りされる情報は極めて少ない。また、訴訟前の交渉事件においても、重要な主張は書面によってなされることが多いといえる。そのため、弁護士にとって、(法律)文書を作成するのは仕事のメインといっても差し支えないといえる。
 ところで、文書を作成するにあたってまず出発点となるのは、「ロジカルに書く」ということであり、これは「ロジカルに考える」こととほぼ同義だということである。したがって、ロジカルな文書というのはロジカルに考えることができていなければ書けないし、反対にロジカルな文書を書かなければ真にロジカルに考えることはできないのである。

 さて、「ロジカルに書く」(≒「ロジカルに考える」)というのは多義的なものであるが、こと文書作成との関連でいうと、それは第一に幹においてロジカルであることであり、第二に枝葉においてロジカルであることだと考える。

 

 まず幹においてロジカルであるというのは、当該文書を書く目的を意識した上で、その目的を支える論拠等が文書の骨格としてしっかり示されているということである。いま述べた概念を図式に表すと、図3のようになる。

 

 


 次に、枝葉においてロジカルであるというのは、文書中の各項目(ex.論拠)を構成する文の一つ一つが、論理的に繋がり、固有の意味を持っており、かつ、読み手に疑問が生じないように書かれているということである。その際に注意すべきことは次の3つである。

 すなわち、第一に、文が論理的に繋がっていることを確認するため、接続詞を意識するとよい。また、第二に、文が固有の意味を持つようにするため、ワンセンテンス・ワンメッセージを心掛けるとよい。そして、第三に、読み手に疑問が生じないようにするため、推敲を繰り返し、読み手の立場に立って自分の書いた文書を読むとよい

 

 上記のように「ロジカルに書く」(≒「ロジカルに考える」)ことができていれば、自ずと文書の形式が整ってくる。ここでいう形式が文書作成において極めて重要である。なぜなら、文書の実質(内容)が法律・判例の知識や証拠、事実であることはいうまでもないが、それを読み手の認識に位置付ける形式(器)が整っていなければ、その実質は読み手に認識されないままとなってしまうからである。また、「ロジカルに書く」ことは「ロジカルに考える」ことと同義であると述べたが、仮にロジカルに考えることができていなければ、本来主張すべき実質(法律・判例、証拠、事実など)を見落としてしまうこともあるからである。

 

⑵ アウトラインを作成する

 さて、それでは文書作成の方法論に移っていこう。私は、ロジカルな文書は次の過程を踏んで作成されると考えている[1]

 

 すなわち、

 

  アウトラインを作成する

      ↓

  アウトラインを文章にする

      ↓

  文章の推敲を繰り返す

 

である。

 

 「アウトライン」とは、文書の骨子と理解してもらえれば十分である。一つ例を挙げれば、皆さんも司法試験や司法修習で論文式答案を作成する際、まず答案構成を作っていたのではなかろうか。それは一種のアウトラインである。

 ロジカルな文書を作成するにあたっては、まず幹においてロジカルであることを確認するためにアウトラインを作成することが不可欠なのである。

 ところで、私はアウトラインを作成するためのツールとして、「アウトライナー」と呼ばれるソフトの一つである「WorkFlowy」を使っている。このようなツールを使う利点としては、各アウトラインの階層が可視化されることやアウトラインの移動がドラッグ&ドロップでできること、そしてコピー&ペーストをすることによってアウトラインをそのまま文章に変えることができることなどが挙げられる。

 

⑶ 推敲を繰り返す

 さて、アウトラインが完成したら、そのアウトラインを文章にしていく。私の場合、アウトラインを作成する段階で、ほぼ文章に近いものを作成してしまうことも多い。その場合、アウトラインをコピー&ペーストすれば、ほぼ文章は完成することになる。

 これに対し、アウトラインを作成する段階では見出し(+要点)のみを作成している場合もある。そのような場合には、各見出しを埋めるようにして文章を書いていくことになる。

 そして、兎にも角にも文章としての形式が整った場合、これを「ファーストドラフト」と呼ぶ。しかし、ファーストドラフトの状態では決して文書は完成していないため、間違ってもそれをボス弁や顧客には出さないように注意されたい。

 では、ファーストドラフトを完成版に仕上げていくにはどうすればよいかというと、そのための方法が推敲である。推敲のコツを2つだけ挙げるとすれば、必ず読み手の立場に立って読むこと、そして徹底して修正することである。

 まず前者について述べると、ファーストドラフトというのは多かれ少なかれ自分目線で書かれていることがほとんどである。そして、読み手の目線で書かれていない文書は、読み手にとって非常に読みづらいのである。仮に文書の目的が、読み手に自分の意見をわかってもらうことにあるとするならば、そのような文書が失敗であることは言うまでもない。

 そこで、推敲においては、読み手の立場に立ってその文書を読み、読み手にとって読みやすい表現に変えていく作業が必要となるのである。

 もっとも、上記の説明だけでは抽象的であるように思われるため、具体的なコツを一つ挙げておきたい。それは、読み手が一文ごとに「イエス」と答えながら読むことのできる文章を心掛けるということである[2]

 例えば、私は前項において「アウトライン」という概念を説明する際に、「答案構成」という例を挙げた。この文章の読み手は「司法試験に合格し、司法修習を終えた新人弁護士」なのであるから、答案構成がアウトラインの一例であることを説明すれば、アウトラインが何たるか理解してもらえると考えたからである。同様に、裁判官や弁護士といった法律専門職に文書を読んでもらう場合には、その共通言語というべき法的三段論法に沿って文章を書くべきである。なぜなら、裁判官や弁護士は法的三段論法に則って、大前提(規範)が真であるか、小前提(事実)が真であるか、ひいてはその論証全体が真であるかを判断するからである。

 これに対し、読み手が明らかに疑問を持つ文章というのは、不完全といえる。例えば、読み手が「なぜそのようにいえるのか?」という疑問を抱くのに、その理由が示されていない文章、読み手が知らないであろう用語が出てくるのにその用語についての定義や解説がなされていない文章、自分の見解を表明しただけであり、客観性を欠く文章などである。推敲においては、そのような文章を修正したり、補うことにより、読み手が「イエス」と思える文章を作らなければならないのである。

 そして、推敲のもう一つのコツは、徹底して修正することである。繰り返しになるが、よほどの文章の天才でもない限り、ファーストドラフトの状態で完成版と呼べるようなものができあがることはまずない。ファーストドラフトには必ず違和感を抱く箇所があり、それは読み手にとって読みづらい箇所であったり、論理的に整合していない箇所であることが多い。そこで、推敲の過程で文章に違和感を抱いた場合、その違和感の原因を必ず追究するようにし、そのままにしないでいただきたい。この作業には誠実さと勇気を必要とするのである。

 「誠実さと勇気」と言われてもピンと来ない可能性があるため、具体的なコツを一つだけ挙げるとすれば、よほどの熟練にならない限り、推敲は最低10回は繰り返したほうがよい。すなわち、テンスドラフト(Tenth Draft)くらいで完成と考えていたほうが、特に新人のうちは無難である。

 

⑷ 参考書籍等

田中豊『法律文書作成の基本 第2版』(日本評論社
・倉島保美『論理が伝わる 世界標準の「書く技術」』(ブルーバックス
戸田山和久『新版 論文の教室 レポートから卒論まで』(NHKブックス)
・バーバラ・ミント『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(ダイヤモンド社
野矢茂樹『論理トレーニング101題』(産業図書)

 

 

[1] 田中豊『法律文書作成の基本 第2版』(日本評論社)のp.6~44に「法律文書の共通作成プロセス」という項があるため、詳しくはそちらを参照されたい。

[2] 私はこれを、交渉の技術になぞらえて「イエスセットの文章」と呼んできた。