採用基準の具体例(「ボス弁」論「第2 採用論」)
全体目次
第1 序論 ~ボス弁自身の成長が何よりも重要~
1 「ボス弁」という仕事
2 勤務弁護士の育成はエゴ・マネジメントを試される仕事である
3 他者は変わらない
第2 採用論
1 成人発達理論に基づく採用基準の策定
2 採用基準の具体例
第3 育成論
1 基本的な心掛け
2 勤務弁護士の成長に対する支援
上記を前提として、如何にして段階4(自己主導段階)以上の人を選考するか。
完全な採用基準は永遠に未完であるが、少なくとも現時点で私は次のように考えている。
⑴ その人の半生をインタビューする
まず、成人発達理論では、各発達段階に対応する意識構造を判定するためには、その人が「どういう言葉をどんなふうに使っているか」に着目することが重要とされている。そして、それを判定するためには、採用面接において事前対策が難しい話をしてもらうことが有効である。その一環として、私は、候補者に対し、その人の半生をインタビューすることにしている。
具体的には、
・これまでに何かに没頭した経験があるか
・大学時代、法律の勉強以外に何をしていたか
・どんな子どもだったか
・親友と呼べる人はいるか
・恩師と呼べる人はいるか
・いつ、どんなきっかけで弁護士を志したのか
などを、その人自身の言葉で語ってもらうことにしている。
その上で、次に述べる着眼点でその人の意識構造(段階4に達しているか否か)を見るように心掛けている。
⑵ 着眼点
ア 言葉の選び方
まず見るべきはその人の言葉の選び方である。特に、語彙の豊富さは言語化能力を通じて発達段階に影響するとされている。
また、いわゆる「借り物の言葉」を多用する人は段階3(他者依存段階)以下であることが推認される。これに対し、仮に訥弁であったとしても、伝えたいことを自分の言葉で表現しようとする人は段階4(自己主導段階)の特徴を備えていると考えられる。
加えて、「事実」を中心に話をすることができる人も、内省が深いという意味で段階4(自己主導段階)以上である可能性が高いと考える。
イ 話の構造
次にその人がどのような構造で話をしているかを見る。
例えば、「いつ、どんなきっかけで弁護士を志したのか」と質問したときに、「中学生の時」(いつ)、「ドラマを観て」(きっかけ)という答えが返ってきたとする。もちろんその回答自体は問題ない。しかし、私が聞きたい部分はそこではないので、次のような質問を続けてするようにしている。
・どうして弁護士の仕事に魅力を感じたんですか
・あなたはその当時どんな学生でしたか
・どのような弁護士になろうと思いましたか
・弁護士を志してからあなたの行動にどのような変化がありましたか
つまり、候補者が弁護士を志したことを、自分の半生の中でどのように意味づけているかこそが重要ということである。そのような問いに対して、不完全ながらも真正面から答えようとする人は段階4(自己主導段階)以上である可能性が高いと考える。なぜなら、意味を構築する能力は段階4(自己主導段階)の特徴の一つだからである。
また、他者とのエピソードが出てくるかも重要である。つまり、どのような人生経験であれ、人が自分一人の力で成し遂げるものなど一つもない。そのため、例えば司法試験合格といった成功体験の理由を尋ねたときに、「友人のこんなアドバイスを聞いて勉強法を変えた」とか「恩師から厳しい指摘をされて目が覚めた」などの他者とのエピソードがないかを聞くようにしている。そのような他者の貢献を的確に認識できる人は、自分を俯瞰して見ることができており、段階4(自己主導段階)を超えて段階5(自己変容段階)の特徴を備えているといえる。