弁護ハック!-若手弁護士によるライフハックブログ

「弁護士 × ライフハック × 知的生産」をテーマに、若手弁護士が日々の”気付き”を綴ります。

弁護士のタスク管理 ~ストレスフリーを実現するシステムとツール~

第1 私のタスク管理手法  ~GTD(Getting Things Done)~

 私は、デビッド・アレン氏が考案したGTD(Getting Things Done)と呼ばれるタスク管理手法を用いています。同氏の著書『はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』(田口元監訳、二見書房)によると、GTDの手法は次の3つに要約されています。

 

  • 頭の中の「気になること」を“すべて”頭の外に追い出そう。
  • それらすべての「気になること」について、求めるべき結果と次にとるべき行動を決めよう。
  • そうして決めたとるべき行動を、信頼できるシステムで管理し、定期的に見直そう。

 

 以下では、弁護士1年目の私が、GTDの実践として行っている作業をご紹介したいと思います。

 

第2 私のGTD実践ツール
 私は、GTDを実践するツールとして、「Nozbe」「Taskchute」という2つのアプリケーションを使用しています。
 Nozbeは、GTD実践のために開発されたアプリケーションであり、そのシンプルな操作性が気に入っています。Windows / Mac用のアプリケーションに加え、スマートフォンやタブレット用のアプリケーションが用意されており、いつでもどこでもタスク管理を可能にしてくれます。
 Taskchuteは、『シゴタノ!』を運営する大橋悦夫氏が開発したタスク管理ツールです。Taskchuteのコンセプトについては、佐々木正悟『なぜ、仕事が予定どおりに終わらないのか?』(技術評論社)に非常に良くまとめられていますので、同書を読んでみることを勧めます。
 それでは、Nozbeで行っている作業とTaskchuteで行っている作業に分けて、私の行っているGTDの実践について説明していきます。

 

1 Nozbe

  

f:id:odenya2:20140721112413p:plain

 

(1) 1日~3週間(あるいはそれ以上の)単位のタスク管理
 まず、NozbeとTaskchuteの使い分けですが、Nozbeは1日~3週間(あるいはそれ以上)単位のタスクを全般的に管理するために使用し、TaskchuteはNozbeで管理した全タスクのうちからその日に実行するものをリスト化するために使用しています。言い換えれば、全タスクをNozbeという「倉庫」に保管しておき、その日に実行するタスクをそこから棚卸ししてTaskchuteという「行程表」に並べるというイメージです。

 

(2) 日次レビュー
 Nozbeに入っているタスクを常に最新の状態に保つために、私は毎日早朝に20分ほどをかけていわゆる「日次レビュー」を行っています。GTDにおける「レビュー」とは、定期的にタスクリストを見直し、新規タスクを登録したり、既に完了したタスクを削除したりすることを言います。
 早朝にレビューを行うのは、他の予定が入る心配がないためです。弁護士の場合、月に何度かは夜に委員会や飲み会などの予定が入りますが、早朝に予定が入ることはほとんど(というか今まで一度も)ありません。そのため、日次レビューを漏れなく実行することができます。

 毎日欠かさずレビューを行うのは、弁護士の仕事がそれだけ刻一刻と状況の変化するものだからです。そのため、日次レビューによってタスクリストを常に最新の状態に保っておくことが必要になります。


(3) 依頼者ごとのプロジェクト作成
 Nozbeでは、個々のタスクを束ねる「プロジェクト」と呼ばれる単位でタスクを管理することができます。私は、依頼者ごとにプロジェクトを作成し、そこに個々のタスクを登録しています。
 依頼者単位でプロジェクトを作成するのは、依頼の趣旨を達するまで仕事は継続するからです。したがって、「○○請求訴訟事件」、「○○交渉事件」というように事件単位でプロジェクトを管理するよりも、事前交渉から民事執行までの全過程をカバーする依頼者単位のプロジェクト管理が適しています。
 また、このような依頼者単位のプロジェクト管理は、Nozbeだけでなく、あらゆるタスク管理ツールに適用することができます。私の場合、Taskchuteのプロジェクト名にも依頼者名を登録していますし、紙ベースの資料を保管するクリアファイルにも依頼者名を記載したラベルを貼って管理しています。

 

2 Taskchute

 

f:id:odenya2:20140721102417p:plain


(1) 1日単位のタスク管理
 Nozbeで1日~3週間単位のタスクを管理しているのに対し、Taskchuteではその日に実行すべきタスクを管理しています。
 私は、Taskchuteで1日単位のタスク管理を始めるまで、いわゆる「割り込みタスク」に振り回され、本来取り組むべきタスクに集中することができていませんでした。その結果、本来取り組むべき重要性の高いタスク(ex.書面の起案)は先送りにされ、締切直前に慌てて取り組むこともしばしばでした。私は、タスクの先送りを防ぎ、本来取り組むべきタスクに集中する方法を探していました。
 また、当時の私は、毎日“色々と”頑張った記憶はあるものの、具体的に“いつ”“何を”したかの記録が残っていなかったため、仕事を“やった”実感を持つことができないでいました。その一方で、なぜか積み重なっていく仕事の量にフラストレーションを感じていました。私は、本当の充実感を感じるために、1日ごとの行動記録を取る必要に迫られていました。
 そのときに出会ったのがTaskchuteでした。


(2) 本来取り組むべきタスクに集中することができる
 Taskchuteを使用し始めてから、私は徐々に本来取り組むべきタスクに集中することができるようになりました。その理由は、第1に、タスクに対する甘い見積もりができなくなったためであり、第2に、割り込みタスクに取り組むことによる予定の遅延(ひいては帰宅時間の遅延)が可視化されるようになったためです。

 ア Taskchuteは甘い見積もりを許さない

 まず、私の場合、タスクを先送りしてしまう主な原因は、「明日の自分に過度に期待してしまうこと」にありました。すなわち、「明日の自分は本来2時間掛かるタスクを30分で終えることができるだろう」と期待し、気の重いタスクを先送りしていました。
 しかし、2時間掛かるタスクの所要時間は、いつ取り組んでも2時間です。そして、Taskchuteでは、見積もり時間と実績時間が記録されるため、その現実に向き合わざるを得ません。私はタスクを先送りする言い訳を失い、気の重いタスクに取り組まざるを得なくなりました。

 イ Taskchuteは全タスクの終了時刻を可視化する

 また、タスクごとの見積もり時間を記載する結果、Taskchuteではその日の全タスクが終了する時刻が可視化されます。そのため、例えば午後8時に全てのタスクが完了するように予定を組んでいた場合、30分掛かる割り込みタスクに取り組んでしまうと退所時間が午後8時30分にずれ込んでしまいます。

 このときの選択肢としては、①割り込みタスクに取り組んで退所時間を30分遅らせる、②割り込みタスクに取り組みつつ、他の予定を先送りして退所時間を守る、③割り込みタスクを先送りにする等がありますが、いずれにしても反射的に割り込みタスクに取り組んでいた頃と違い、優先順位を踏まえてどの選択肢を選ぶか判断するようになりました。

 そして、優先順位の高いタスクに多くの時間を割くことができるようになりました。


(3) 行動記録
 Taskchuteのもう一つの効用は、1日の行動記録が明らかになることです。
 しばしば誤解されることですが、Taskchuteは、タスクの開始“予定”時刻と終了“予定”時刻を予め定めておくツールではありません。その代わりに、実際にタスクを開始した時刻と終了した時刻を記録するツールなのです。開始予定時刻と終了予定時刻は、1~2時間の枠で大ざっぱに定めておくに過ぎないのです(画面上「A」~「L」の記号が付いているのがそれです。)。
 なお、開始時間と終了時間の記録は、「Ctrl」+「:」のショートカットキーを使うことによって一瞬でできます。Taskchuteは、1日の行動記録を完全に、そして手軽に実現する優れたツールです。

 

第3 まとめ
 以上が私のタスク管理手法です。

 念のため申し添えておきますが、弁護士1年目の私は、経験を積んだ弁護士の先生方に比べると仕事ができません。その理由は、個々のタスクを処理する能力が、その完成度・効率ともに未熟だからです。弁護士の能力の本質が、個々のタスクを処理する能力、すなわち書面を作成する能力や交渉に当たる能力にあることを考えれば、タスク管理手法にいくら習熟したとしても仕事ができるということにはなりません。したがって、弁護士としての成長目標を、そうした個々のタスクを処理する能力の向上に置かなければならないことは言うまでもありません。
 他方で、実務に出て必然的に直面するのは、司法修習までと異なり、弁護士の仕事はマルチタスクだということです。しかも、年数を重ねるにしたがってタスクの量は増える一方です。その意味では、タスク管理手法を学ぶ必要は全ての弁護士にあります。私は、個々のタスクを処理する能力とタスク管理手法とは、弁護士にとって車の両輪の関係にあると考えています。
 ところが、個々のタスクを処理するノウハウについて多数の書籍・記事が存在するのに対し、弁護士のタスク管理手法について書かれた書籍・記事はほとんど見られません*1。そこで、参考までに私のタスク管理手法を公開してみようと思い立った次第です。
 本記事が、これから実務に出る司法修習生や法科大学院生のご参考になれば幸いです。