弁護ハック!-若手弁護士によるライフハックブログ

「弁護士 × ライフハック × 知的生産」をテーマに、若手弁護士が日々の”気付き”を綴ります。

「試験」の暗黙知 ~合否を分ける一つの要素~【学生時代の記事の再掲】

 最近、野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』(東洋経済)という本を読み、これまでの人生観・仕事観が変わるような体験をしました。

 この本は経営学の名著として有名ですが、「暗黙知」・「形式知」の定義とその実際的意義については、企業経営以外の分野にも通じる部分があると考えます。今回は、「暗黙知」・「形式知」の概念を借用して、「試験」に合格する条件について考えてみたいと思います。

 

1.「暗黙知」・「形式知」の定義

(1) 暗黙知

 「暗黙知」とは、本書では次のように説明されています。

 

 "・・・暗黙知は二つの側面を持っている。一つは技術的側面で、「ノウハウ」という言葉で捉えられる、はっきりとはこれだと示すことが難しい技能や技巧などが含まれる。たとえば、長年の経験を持つ熟練職人は、指先に豊かな技能を蓄えている。しかし、彼が自分の持っている「知」の背後にある科学技術的原理をはっきり説明できないことは珍しくない。

 同時に、暗黙知には重要な認知的側面がある。これに含まれるのが、スキマータ、メンタル・モデル、思い、知覚などと呼ばれるもので、無意識に属し、表面に出ることはほとんどない。この認知的側面は、我々が持っている「こうである」という現実のイメージと「こうあるべきだ」という未来へのビジョンを映し出す。簡単には言い表せないこれらの暗黙的モデルは、我々が周りの世界をどう感知するかに大きな影響を与える。"(p.9)

 

 前者の技術的側面についてはスポーツを思い浮かべるとよく理解できます。野球のスイングについては確かに技能や技巧があります。しかし、腕のいいバッターが自分のスイングがなぜ正しいのか説明できるとは限りません。このように、「暗黙知」の技術的側面とは、言語的に説明できないが「できる」という状態をいうものであると私は理解しています。

 そして、後者の認知的側面については「試験」との関係で後に詳しく述べますが、さしあたり言語的に説明できないが「感じ取っている」状態と理解できるかと思います。

 

(2) 形式知

 これに対し、「形式知」は次のように説明されます。

 "・・・形式知は、言葉や数字で表すことができ、厳密なデータ、科学方程式、明示化された手続き、普遍的原則などの形でたやすく伝達・共有することができる。したがって知識は、コンピュータ符号、化学式、一般法則と同一視されているのである。"(p.8)

 典型的には、マニュアルに記載されるような言語的知識を想像すればいいと思います。さきほどのバッティングの例で言えば、フォームの図解がこれに当たります。

 

(3) まとめ

   暗黙知

    技術的側面

    認知的側面

   形式知

 

2.「試験」における「暗黙知」の存在

(1) 技術的側面

 「試験」と初めとした法律の試験で、良い答案を書くために必要とされる技能が存在することを否定する人はいないと思います。実際、平成21年に公開された「新司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について」では、採点において留意される事項について次のように述べられています。

 "採点に当たっては,事例解析能力,論理的思考力,法解釈・適用能力等を十分に見

ることを基本としつつ,全体的な論理的構成力,文書表現力等を総合的に評価し,理

論的かつ実践的な能力の判定に意を用いるものとする。"

 ここに書かれた「事例解析能力」、「論理的思考力」、「法解釈・適用能力」、「論理的構成力」及び「文書表現力」というのが「試験」に必要とされる主な技能です。そして、「事例を適切に解析できる」、「論理的に思考を進めることができる」、「法を解釈し、当てはめることができる」、「論理的な文書構成ができる」、「わかりやすい文書を作成できる」といったことが、「試験」の暗黙知の技術的側面に当たります。 

 

(2) 認知的側面

 合格者の多くは、いわゆるマインドも「試験」合格のために必要であったと感じているはずです。例えば、私は直前期に「素直な人が伸び、頑固な人は伸び悩むよね。」といった話をよくゼミ仲間としていました。

 あるいは、「試験」のマインド面でのバイブルというべき永山在浩『これが「試験」の正体だ!』(辰巳法律研究所)では、「聞き上手」の重要性が次のように説かれています。

 "問題文を読むと書きたいことが山ほど出てきます。特にその傾向が強いのは憲法の人権ですが、頭の中に、書きたいことが湯水のごとくわき上がってきます。ところが出題者が求めているのは、その一角なんです。全部を求めているのではなくて、その問題に必要な範囲で書いてくれといっているわけです。"(p.13)

 このように、「試験」とは「どのようなものであるか」、そして合格するためには「どのような人であるべきか」といったマインド面の姿勢を、「試験」の暗黙知の認知的側面と呼ぶことができると思います。

 

3.「試験」における暗黙知の獲得の難しさ

(1) 暗黙知はしばしば「センス」と呼ばれる

 今までで述べたように「試験」の暗黙知は合格のための重要な要素であると考えますが、このような暗黙知を早い時期から備えている人々がいます。それは「院」の成績優秀者です。

 スポーツになぞらえてみるとわかりますが、同じ練習をしているのに飲み込みが早い人と遅い人に分かれるというのはよく見られる現象です。同様に、「院」ではほとんどの人が「真面目に」(まさにその意味が問題ではありますが。)勉強に取り組みますが、やはり起案をしてみると良い答案を書く人と悪い答案を書く人に分かれます。そして当然ながら、良い答案を書くことが「できる」人が成績優秀者に名を連ねます。

 合否が出てみてようやく実感しますが、「院」の成績と「試験」の合否の相関性は極めて高いです。その理由は、「院」の授業・期末試験における暗黙知と「試験」における暗黙知がほぼ合致しているためだと考えています。したがって、「院」の成績優秀者は、短答に必要な知識の吸収さえ怠らなければ順当に合格していきます。

 このような成績優秀者は「センス」のある人と呼ばれ、周りの人はもちろん、本人にもなぜ良い答案を書くことができるのかうまく説明できなかったのではないかと思います(もちろん、それが血の滲む努力に裏付けられていることは知っています。しかし、スポーツと同様に努力だけで説明できないものがあることも理解していただけるはずです。)。

 

(2) 「センス」のない人の苦悩

 「センス」のある人は、「試験」に必要な暗黙知を自然に獲得することができます。そこで問題は、「センス」のない人が暗黙知を獲得し、「試験」に確実に合格するためにはどうすればよいかです。

 前掲『これが「試験」の正体だ!』には、著者の浪人時代の苦悩が綴られています。

 "・・・何度もやめようと思いました。でも、やるべきことがわかったうえで、それができなくて落ちるのならあきらめもつきますが、わけがわからないままやめるのは悔しい。でもこの世界、出題者が何を求めているのか、わからないんですよね。「いったい自分のどこが悪くて受からないんだろう」「受かる人間はどこがいいから受かるんだろう」といったことについて、あまりにも情報が少ない。受験生活をやっていて、いちばんつらかったことです。"(p.8)

 

4.新「試験」に対する期待 ~方法論の確立の可能性~

 先の永山先生の苦悩は旧「試験」時代のものです。しかし、新「試験」になったことに伴う様々な変化により、「センス」のない人が「試験」に確実に合格する道筋が開けつつあるのではないかと私は期待しています。

 ここで野中・竹内『知識創造企業』に話を戻すと、同書には個人が暗黙知を獲得する3つの方法が書かれています。すなわち、①個人単独による個人知の創造、②他人の暗黙知の「共同化」、③形式知の「内面化」です。

 ①は過去問等を愚直に解いて学ぶということに尽きると思うので、以下では②と③について説明を加えます。

 

(1) 他人の暗黙知の「共同化」 ~「院」というプラットフォーム~

 前掲『知識創造企業』には、「共同化」について次のように書かれています。

 "共同化とは経験を共有することによって、メンタル・モデルや技能などの暗黙知を創造するプロセスである。人は言葉を使わずに、他人の持つ暗黙知を獲得することができる。修業中の弟子がその師から、言葉によらず、観察、模倣、練習によって技能を学ぶのはその一例である。ビジネスにおけるOJTは、基本的に同じ原理を使う。暗黙知を獲得する鍵は共体験である。経験をなんらかの形で共有しないかぎり、他人の思考プロセスに入り込むことは非常に難しい。情報は、共体験に伴うさまざまな感情やその特定の文脈から切り離されてしまえば、ほとんど意味を失ってしまうのである。"(p.92)

 ここにいう「共体験」として、私たちは「院」のクラスや自主ゼミの仲間と共有する体験を想起するはずです。

 新「試験」に移行した際の最も大きな変化の一つが、「院」の創設と、その卒業を「試験」の受験要件としたことです。これにより、私たちは全員(ただし予備試験組を除く。)、「院」の同期や先輩合格者、さらには教授から技能やマインドを観察・模倣する機会を得ました。

 したがって、「院」という人的プラットフォームを最大限に利用することが合格への近道といえそうです。実際、友人をたくさん作ったり、先輩合格者や教授に積極的に話を聞きに行ったりしていた人ほど「試験」に合格しています。

 

(2) 形式知の「内面化」 ~情報公開、インターネット~

 "形式知暗黙知に内面化するためには、書類、マニュアル、物語などに言語化・図式化されていなければならない。文書化は、体験を内面化するのを助けて暗黙知を豊かにする。さらに、文書やマニュアルは形式知の移転を助け、ある人の経験を他の人に追体験させることができる。"(前掲p.103)

 新「試験」になって以来、「試験」委員会の情報公開が格段に進みました。出題趣旨や採点実感の公表です。

 このような公式資料には試験委員の求める技能・マインドが形式知の形で書かれています。そのため、これを熟読・分析・実践することにより、「センス」のない人でも必要な技能・マインドを確実に身に付けることができます。

 また、昨今のインターネット環境の進歩はめざましいです。使い方次第ではありますが、合格者ブログやSNSを通じて「試験」の形式知を獲得することも容易になってきました。

 

5.理論から実践へ

 以上説明してきたように、「暗黙知」という概念を用いることにより、「センス」のない人が確実に「試験」に合格する方法論を理論的に説明することができるように思います。それは先の3つの方法を通じて能率的に「試験」の暗黙知を獲得することです。

 そして、その方法論に適した環境は新「試験」移行に伴って既に整備されています。

 そこで問題は、上記方法の具体論です。

 したがって、本連載の次回以降は、その具体論について特に㋐自主ゼミの利用方法と㋑出題趣旨等の分析方法にフォーカスして述べていきたいと思います。

 長文失礼致しました。

 

「試験」で求められる3つの「基礎」【学生時代の記事の再掲】

1.「基礎」の意義

 「基礎」という言葉を辞書で調べてみると、「それを前提として事物全体が成り立つような、もとい(土台、根本)」(広辞苑第6版)という意味が出てきます。このように「基礎」には初歩とか簡単といった意味は含まれておらず、事物全体に通底するものを指す言葉だと理解することができます。

 「基礎」のこのような意義を前提とすると、「試験」にはおよそ3つの「基礎」があったのではないかと思います。① ある科目内の複数の事項に共通する基礎、② 法律科目全体に共通する基礎、③ 「試験」と他の分野に共通する基礎です。

 

2.「試験」における基礎

① ある科目内の複数の事項に共通する基礎

 ある科目内の複数の事項に共通する基礎については、まず、特定の法規範の要件・効果の前提をなす制度趣旨があります。例えば、民法94条2項の要件は通謀による虚偽の意思表示と第三者の善意で、その効果は当事者が意思表示の無効を第三者に対抗することができないことですが、その前提には権利外観法理、すなわち真の権利者の帰責性に基づく虚偽の外観を信頼した第三者を保護しようとする制度趣旨があります。

 また、複数の法規範の前提をなす制度趣旨や原理というものもあります。上記の権利外観法理はその典型であり、民法94条2項の類推適用や表見代理規定の前提をなしています。

 

② 法律科目全体に共通する基礎

 法律科目全体に共通する基礎の典型例としては、法的三段論法があります。

 法的三段論法とは、おおすじ以下のような図で表されるものと理解しています。

 

1(大前提たる法規範)

 条文・基本原理(「基本的理解」の確認)

 (必要とあらば法解釈)

 規範の抽象的宣明(「基本的理解」の確認。特に判例法理・通説。)

2(小前提たる事実)

 問題文の事実の抽出

   ↓(すじみち)

 規範との関係でどのような意味を有するかを明らかにすること(「評価」)

   ↓(すじみち)

 規範の具体的宣明(本件で、規範はどのような形で表れているか。「基本的理解」の応用ができていることの確認。)

3(結論)

 

 このような順序で論じていくことで、論理的で説得的な法律家の文章になると同時に、「試験」との関係では法の基本的理解とその応用にもれなく答えることができるのだと思います。

 

③ 「試験」と他の分野に共通する基礎

 「試験」と他の分野に共通する基礎というものが存在します。これには性格やマインド、地頭など様々なものが含まれますが、私がここで紹介したいのは戦略的思考です。

 戦略的思考とは、「敵を知り、己を知らば百戦危うからず」という孫子の言葉に集約されると思います。

 私は、「試験」は"暗闇迷路"だと考えています(そういう言葉があるのか知りませんが。)。つまり、ゴール地点のはっきりした"マラソン"であればさほど苦労しないのですが、現実にはどこがゴール地点なのかはっきりせず、多くの受験者が暗闇の中で右往左往しています。ゴール地点がわからない結果、自分が現在ゴール地点との関係でどこに立っているかもわからないからです。

 この暗闇迷路をクリアする方法にはいくつかあって、比喩的にいえば、a 嗅覚を使ってゴールを探り当てる人もいるでしょう(「試験」に対するセンス)。また、b あり得る全てのルートを実際に歩き尽くしてゴールに辿り着く人もいるでしょう(圧倒的な勉強量・演習量)。しかし、第三の道として、c 迷路を俯瞰的に見ることによりゴール地点と現在地点をはっきりさせる方法(分析、研究)があると思います。

 私は比較的上記のcの方法を意識して勉強し合格しましたが、受験後に気付いたのはこの方法は他分野にも広く応用が利くということです。詳しくは紹介しませんが、様々な分野での学習効率が上がりました。

 これは逆方向から見ても同じであるはずで、「院」入学前に他分野に取り組むことを通じて戦略的思考を身に付けていた人にとって、「試験」は比較的取り組みやすかったのではないでしょうか。

 

3.修習へ

 以上、「試験」で求められる「基礎」について、私の思うところをまとめてみました。

 そして修習に向かおうとする今、白表紙教材などを読む限り、「試験」における基礎と修習における基礎は大部分が共通しているのではないかと感じています(当たり前ですが)。そのため、平成22年度合格者の「眠れる豚」さんの以下の言葉は重く受け止めるべきだと思います。

 

 僕自身の「試験」合格から1年以上経ってしまいましたが、いま修習を終え、受験勉強でやってきたことは無駄ではなかったというのが偽らざる実感です。修習で垣間見た実務は、「試験」で得た知識だけで何とかなる世界ではありませんが、そうした知識は当然前提とされます。例えば検察庁では、刑法の理解がなければ処分を決めるための的確な捜査を遂げることはできなかったし、裁判所では訴訟指揮について手続法の理解が前提となります。弁護士でも、一般民事の事件でも意外と(!)法律的に悩む問題は多くて、そういったところではこれまでの知識や、「試験」でも必要とされる「法律的な議論の運び」が求められたように思います。

 今思えば、二年前に間違って受かってしまっていたら、そういった前提を欠いたまま修習に臨んでしまい、本来得るべきものの手前で躓いてしまっていたことでしょう。不合格を受けてそれなりに勉強していたからこそ、修習の期間に裁判官と議論したり、弁護士と新たな法律構成について検討したり(「試験」の問題で出てくるような高度な問答ではありませんが…)と、貴重な機会を得ることができました。ですから、辛い受験勉強は決して無駄にならないし、再受験になったことも長い眼で見れば間違っていないといえるはずです。(「二回試験のご報告と更新終了のお知らせ」/ "新「試験」再チャレンジ日記")

http://lawnin.blog83.fc2.com/blog-entry-229.html

 

 「試験」でできなかったことを反省すると同時に、「試験」を通して身に付けた基礎を大事にして、これからの修習を頑張っていきたいと思います。

 

短答式の学習について【学生時代の記事の再掲】

 短答式の勉強がだいぶ煮詰まってきたので、これまでに採ってきた勉強方法について書きたいと思います。「院」の新3年生の参考になれば幸いです。

 

1.使用した教材

 基本的に、

 ① 新「試験」の過去問(プレテスト~平成23年度)

 ② 判例六法(『岩波 判例セレクト六法』)

の二つです。

 これに加え、必要に応じて

 ③ 各科目の基本書

 ④ 判例百選

を参照しました。

 もっとも、参照したのは主に勉強の初期段階で、最近はほとんど使っていません(ただし、憲法は除きます。その理由については後述します。)。

 

2.学習の経緯とその方法

(1) 2011年4月~9月

 私が短答式の勉強を始めたのは、昨年の4月です。

 過去問を本試験と同じ時間制限で解き、復習を詳しくやるという方法を採りました。4月にプレテストを解き、5月に平成18年、6月に平成19年、7月に平成20年、9月に平成21年と平成23年、というように、ほぼ1ヶ月に一年度というペースで過去問を解きました。

 肢別等の教材を使わなかった理由は、全科目の教材を揃えるためにはそこそこのお金がかかってしまうと思ったからです。そのため、ひとまず過去問で勉強してみて、行き詰ったら肢別を買おうと考えました。

 当初、プレテストの点数は約200/350。足切りからのスタートでした。

 復習の方法で最も気を付けていたのは、極力法セミ等の解説を読まないようにすることでした。そして、正解した問題も間違えた問題も、全ての肢の正誤の理由を、条文、判例に照らして自分の頭で考えるようにしました。参照するのは、第1に条文。第2に判例六法に掲載されている判例。それでもわからないときは基本書や百選、というように、参照する教材の優先度にも気を配りました(その効用については後述します。)。

 また、条文に当たったときは、前後の条文をはじめとして、当該法制度全体の復習をするように心がけました。類似の問題が少し視点を変えて問われた場合にも正答できるようにしておくためです。

 その結果、9月に平成23年の問題を解く頃には、十分合格点を取れるようになりました。このように順調に点数を伸ばすことができたのは、上記の勉強方法が自分に合っていたことに加え、同じことが視点を変えて問われるという短答式「試験」の特徴も大きいと思っています。

 

(2) 2011年9月~12月

 9月から条文素読を始めました。これまで過去問を解いてきた経験から、求められている知識の大部分は条文だと考えたからです。

 当初は判例六法の判例部分まで読んでいましたが、これではあまりに効率が悪いことに気付きました。そこで、1周目はひたすら条文だけを読む方針に切り替えました。

 条文を読む際には、制度趣旨や条文の背後にある利益の対立に思いを馳せるようにしました。この視点が特に有効だったのが会社法です。会社法の条文は一見すると無味乾燥で、私も以前まで苦手意識を抱いていましたが、一度素読してみるとその構造の緻密さに魅了されました。条文の文言だけでなく、趣旨をセットで理解することによって、記憶効率が格段に上がりました。

 条文の「趣旨」と言いましたが、決してコンメンタール等を参照したわけではありません。それまでに蓄積された基本書等のおぼろげな知識を借りながら、条文ごとにその趣旨を推論していきました。細かく見れば理解が不正確な部分もあるのかもしれませんが、条文構造を覚えるだけであればこれで十分だと割り切りました。

 読んだ法律を挙げると、

 ① 憲法、② 行政事件訴訟法、③ 行政手続法、④ 行政不服審査法、⑤ 国家賠償法、⑥ 行政代執行法、⑦ 情報公開法、⑧ 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律、⑨ 国家行政組織法、⑩ 民法、⑪ 借地借家法、⑫ 商法(628条まで)、⑬ 会社法特別清算を除く。)、⑭ 手形法、⑮ 小切手法、⑯ 民事訴訟法、⑰ 刑法、⑱ 刑事訴訟法、です。

 参照頻度は多くありませんが、国会法、内閣法、人事訴訟法警察官職務執行法裁判員の参加する刑事裁判に関する法律等も読みました。

 その甲斐あってか、12月に平成22年の問題を解く頃には、安定して高得点が取れるようになりました。

 

3.短答式の学習、何をすべきか

(1) 過去問の分析

 過去問分析は、論文式だけでなく、短答式においても大切だと思います。以前ブログ記事にも書いたことですが、過去問1~2年分だけでいいので、①求められている知識の内容、②出題の傾向、③文章のパターン、等について詳しく分析してみることを勧めます。私は、昨年12月に、平成23年と平成22年の問題について詳しい分析をしました。

 また、前述した、"解説を読まずに自分の頭で考える"という方針がここで活きました。出題のタネとなった条文や判例に直接当たるようにしていたので、過去問を通じて求められている知識内容がおぼろげにわかっていました。

 

(2) 憲法以外の科目で求められている知識内容

 結論から言えば、求められていることの大部分は条文の知識だと思います。そのため、短期間で点数を伸ばしたいと考えるならば、条文をひたすら素読することが一番だと思います。

 判例の知識が正面から問われることもありますが、それは民法94条2項の「第三者」や同法145条の時効の援用権者(「当事者」)といった抽象的文言が問題となる場合です。問題中の肢の全てにわたって判例の知識が求められることはそれほど多くありません。

 さらに、一言に判例と言っても、出題頻度が高いのは圧倒的に民集刑集に掲載された判例です。

 条文>民集刑集判例>その他の最高裁判例、という優先度を見失わないように勉強することが大事です。

 

(3) 憲法で求められている知識内容

 これは私自身とても苦しみました。

 人権の分野では、判例を細部まで理解していることを求めているように思えます。百選の要約や裁判所HPに掲載されている「裁判要旨」を押さえているだけでは太刀打ちできない問題がしばしば出題されます。また、統治の分野では、条文に記載されていない基本原理が問われます。

 憲法は、判例六法では不十分である点で特殊です。理想的には、判決原文を読んだり、野中ほか『憲法Ⅰ・Ⅱ』といった基本書の内容を正確に理解している必要があります。

 しかし、憲法最高裁判例は、いくら数が限定されていると言っても150程度はあるはずです。基本書もそこそこの分量があります。その全てについて短答プロパーの勉強をするのは、不可能であるか、少なくともあまりに非効率です。

 そこで、考えました。

 旧司短答式の過去問が法務省のサイトで公開されています。これを使って、問題のパターンを覚えてしまうのが最短の方法ではないでしょうか。

 私も現時点で7年分解いてみましたが、問われている知識内容は毎年同じです。出題判例も何度も重複しています。これを解いて、適宜基本書等で復習するようにしています。 

 

4.まとめ

 長くなってしまいました。

 最後に、短答式の学習のコツは、過去問を分析し、インプットの範囲を最小限に限定することだと思います。過去問は基本を直球で問うてきますし、文章も素直です。最低限の知識さえあれば、"考える"ことによって解答を導けるようになっています。

 肝心なのは、過去問を大切にし、「最低限の知識」の範囲を確定することです。本格的なインプットはその後から始めても遅くないと思います。

 

インプット / アウトプットの再定義【学生時代の記事の再掲】

1.旧来、想定されてきた構図

     

    (アウトプット)

  自 → → → ?

  分 ← ← ← ?

      (インプット)

 

 「インプットの勉強」と「アウトプットの勉強」、あるいは「アウトプットを意識したインプット」など、「試験」界では旧来から「インプット」、「アウトプット」という言葉が使われてきました。しかし、これらの語の意味するところは必ずしもはっきりと意識されてこなかったように思います。

 これは私の所感ですが、「インプット / アウトプット」という語が語られるとき、人は知らず知らずのうちに上記のような構図を思い浮かべていたように思います。すなわち、上記の図では、インプットとアウトプットは対立するベクトルとして捉えられています。そして、アウトプットは、多かれ少なかれインプットした知識を「吐き出す」ものとして認識されてきました。

 しかし、よく考えてみるとこの構図には大きな誤りがあります。

 第1に、この構図ではインプット先とアウトプット先が曖昧なままにされています。当たり前のことですが、私たちにとってのアウトプット先は「試験」です。では、インプット先はというと、当然「試験」以外のものです。この点で、上記の図のような対立したベクトルは成り立たないことがわかります。

 第2に、実際上も「試験」では、インプットした知識を(そのまま)吐き出すことは求められていません。論証パターンの弊害を持ち出すまでもなく、新「試験」ではますます現場思考が求められています。

 

2.新たな構図の提案

 そこで、「新た」かどうかはわかりませんが、「インプット / アウトプット」という語を使うとき、両者を明確に区別して、次のような構図を想定してはどうでしょうか。

 ・アウトプット

 ・インプット

  外界 →→ 自分

 ・インプット / アウトプット

 

3.インプット / アウトプットの概説

(1) アウトプット

 アウトプットとは、自分と「試験」との間で行なわれるやり取りの全てを指します。

 過去問の答案を書くことはもちろんアウトプットに当たります。しかし、それにとどまらず、「趣旨」や再現答案を読むこともここでいうアウトプットに当たりますし、「試験」の分析に役立つ限り、合格者ブログや受験雑誌を読むこともアウトプットに当たります。

 これに対し、答案を書くことが常にアウトプットに当たるわけではありません。「院」の期末試験や予備校作成の問題を解く場合、2時間という同じ時間制限が設定されている限りで、「試験」本番を想定したアウトプットと言うことはできます。しかし、その問題の分析や復習をしたとしても、「試験」の分析に関係しない限り、それはインプットの分野に含まれます。

 

(2) インプット

 インプットとは、「試験」の勉強からアウトプットを除いた全てを指します。

 

4.構図を転換させる意義

 旧来、アウトプットの意義が「書く」ことのみに限定されてきた結果、「試験」の分析という、アウトプットのもう一つの側面が軽視されてきたのではないかと思います。その結果、インプットの勉強も、アウトプットによる分析を踏まえない的外れな方向に向かいがちでした。典型的には、学説の勉強です。

 構図を転換した結果、「アウトプットを意識したインプット」の意味するところが見えてきます。それは旧来の理解のように、書きやすい形で記憶しよう、ではありません。「試験」において求められている知識(のみ)を記憶しよう、です。あくまでアウトプットによる分析が先に来なくてはいけません。

 

5.まとめ

 インプット / アウトプットの再定義、と書きましたが、ここで意図しているのは主としてアウトプットの再定義です。

 上のような意味でのアウトプットの重視は、合格者の話とも合致します。とりわけ、2回目ないし3回目で合格した「リベンジ合格」の方は、口を揃えてアウトプットの重要性を説きます。過去問演習が足りなかった人は過去問を書く時間を増やし、「趣旨」の読み込みが足りなかった人は「趣旨」を徹底的に読み込んで、翌年の(上位)合格を勝ち取っています。

 「試験」本番まで残すところ17日となりました。多くの方はインプットのまとめ作業に入っている時期かと思いますが、ここでもう一度自分のインプット / アウトプットのバランスを再点検してみてはいかがでしょうか。

 

短答式の実践について【学生時代の記事の再掲】

 先々週の記事では、短答式の学習について述べました。そこで、今回はより実践的な視点から、短答式試験の分析をしてみたいと思います。

 

1.はじめに

(1) 短答式で要求されている二つのスキル

 ① 正確な基礎知識

 これは言うまでもないでしょう。先々週の記事で述べたところに従えば、主に条文と民集刑集掲載判例です。

 ② 読解力・論理的思考力

 見落とされているのはこちらです。

 

(2) なぜそのように考えるのか

 理由は二つあります。

 第一に、論文式試験においては、読解力・論理的思考力が明らかに問われているからです。形式こそ違えど、同じ「試験」である以上、求める能力に違いはないはずです。

 第二に、知識だけでは選抜にムラが出てしまうからです。これは旧「試験」の末期以来の傾向ですが、「試験」委員会は知識偏重型の選抜をあの手この手で避けようとしています。新「試験」の論文式はもちろんのこと、短答式試験においてもこの方針は受け継がれているはずです。

 

(3) 正答率を上げるために

 以上を前提とすると、① 基礎知識と、② 読解力・論理的思考力の両方をフルに活用することが、正答率アップの近道だということになります。今回の記事は、後者(②)の活用を勧めるものです。

 

2.総論

 

 [第4問](平成23年度民事系)

 代理人の権限に関する次のアからオまでの各記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

 ア.成年後見人は、成年被後見人の意思を尊重しなければならないが、成年被後見人の財産に関する法律行為を代理するに当たって、成年被後見人の意思に反した場合であっても、無権代理とはならない。

 イ.父母が共同して親権を行う場合、父母の一方が、共同の名義で子に代わって法律行為をしたとしても、その行為が他の一方の意思に反していることをその行為の相手方が知っているときは、他の一方は、その行為の効力が生じないことを主張することができる。

 ウ.委任による代理人が、やむを得ない事由があるため復代理人を選任した場合には、復代理人はあくまで代理人との法律関係しか有しないので、復代理人の行為が本人のための代理行為となることはない。

 エ.判例によれば、親権者が子の財産を第三者に売却する行為を代理するに当たって、親権者がその子の財産に損害を及ぼし、第三者の利益を図る目的を有していたときは、その子の利益に反する行為であるから、無権代理となる。

 オ.委任による代理人は、未成年者でもよいが、未成年者のした代理行為は、その法定代理人が取り消すことができる。

1.ア イ 2.ア エ 3.イ オ 4.ウ エ 5.ウ オ

 

(1) 読解の方法を確立する

 下線の引き方等を予め決めておくといいと思います。

 私の場合は、

 下線・・・解答上意味のある記載

 斜線・・・文節の境目

 □囲み・・・重要な法律用語、論理を示す語、肢の結論部、問い

 括弧・・・挿入句

 というように、鉛筆を使いながら読み進めていきます。

 

 具体的には(□囲み部分は赤字で表記)、

 

 代理人の権限に関する次のアからオまでの各記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

 ア.成年後見人は、/成年被後見人の意思を尊重しなければならないが、/成年被後見人の財産に関する法律行為を代理するに当たって、/(成年被後見人の意思に反した場合であっても、)/無権代理とはならない

・・・(以下略)・・・

 

 このように分析的に肢を読んでいくと、問題の所在がはっきりします。読み間違い等のうっかりミスも減らすことができます。

 

(2) 論理的に解答を導く

 正誤のわかった肢を足掛かりにして、解答を導きます。この点については、問題類型ごとの違いがあるため、各論に譲ります。

 

3.各論

 短答式で出題される3つの主な問題類型ごとに検討していきます。3つの類型とは、① 組み合わせ型、② 単純選択型、③ 全部一致型、を指します。

 

(1) 組み合わせ型

 [第4問](平成23年度民事系)

 代理人の権限に関する次のアからオまでの各記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

 ア.成年後見人は、成年被後見人の意思を尊重しなければならないが、成年被後見人の財産に関する法律行為を代理するに当たって、成年被後見人の意思に反した場合であっても、無権代理とはならない。

 イ.父母が共同して親権を行う場合、父母の一方が、共同の名義で子に代わって法律行為をしたとしても、その行為が他の一方の意思に反していることをその行為の相手方が知っているときは、他の一方は、その行為の効力が生じないことを主張することができる。

 ウ.委任による代理人が、やむを得ない事由があるため復代理人を選任した場合には、復代理人はあくまで代理人との法律関係しか有しないので、復代理人の行為が本人のための代理行為となることはない。

 エ.判例によれば、親権者が子の財産を第三者に売却する行為を代理するに当たって、親権者がその子の財産に損害を及ぼし、第三者の利益を図る目的を有していたときは、その子の利益に反する行為であるから、無権代理となる。

 オ.委任による代理人は、未成年者でもよいが、未成年者のした代理行為は、その法定代理人が取り消すことができる。

1.ア イ 2.ア エ 3.イ オ 4.ウ エ 5.ウ オ

 

ア 「捨て肢」という概念

 解答(1.)を導く道筋として、次の4つが考えられます。

 アが○、イが○、とわかる(論理的に答えは1.)、

 アが○、エが×、とわかる(蓋然性から答えは1.)、

 イが○、オが×、とわかる(蓋然性から答えは1.)、

 ウが×、エが×、オが×、とわかる(論理的に答えは1.)。

 このように見ると、「ウ.」の肢は、エ、オが共に×であることが判明しない限り、解答に役立たないことがわかります。また、この場合、論理的にア、イは○となるので、全ての肢の正誤が判明しない限り使えない肢、と言い換えることもできます。

 この「ウ.」のような肢を便宜上「捨て肢」と呼びます。

 

イ 肢を読む順序

 捨て肢が解答に役立たないのであれば、時間の制約上、捨て肢を読むことはなるべく避けるべきです。したがって、「捨て肢」率の最も低い肢から順に読んでいくことが効率的と言えます。

 「捨て肢」率の解明のために、過去問を使って統計を取りました。その結果、「捨て肢」率の低い順に、イ→オ→ウ→ア→エ、となります。肢はこの順序で読んでいくことが(理論的には)効率的ということになります。

 

(2) 単純選択型

 

 [第3問](平成20年度民事系)

 行為能力に関する次の1から5までの各記述のうち、誤っているものはどれか。

 1.共に18歳の夫婦が自分たちだけで決めて行った離婚は、取り消すことができない。

 2.成年被後見人が、後見人の同意を得ずに電気料金を支払った行為は、取り消すことができない。

 3.被保佐人が、保佐人の同意を得ずに、貸付金の弁済を受けた行為は、取り消すことができる。

 4.補助開始の審判がされる場合においても、補助人は当然に代理権を付与されるわけではない。

 5.被保佐人が取り消すことのできる行為を行った場合、その相手方は、被保佐人に対して、保佐人の追認を受けるべき旨の催告をすることができるが、保佐人に直接追認するか否かの回答を求める催告をすることはできない。

 

 単純選択型問題は、組み合わせ問題のように論理を使って解答を導くことができないため、一見難しいように見えます。しかし、肢の中に明白なものが含まれていることが多いのが単純選択型問題の特徴です。上記の例で言えば、「5.」の肢です。

 したがって、難しい肢は大胆に飛ばして、明白な肢を探しましょう。それが解答の足掛かりになるはずです。

 

(3) 全部一致型

 

 [第3問](平成20年度公法系)

 「公共の福祉」に関する次のアからウまでの各記述について、それぞれ正しい場合には1を、誤っている場合には2を選びなさい。

 ア.憲法第13条の「公共の福祉」は、人権の外にあって、すべての人権を制約する一般的な原理であり、憲法第22条、第29条が特に「公共の福祉」を掲げたのは、特別な意味を有しないという見解がある。しかし、このような見解では、「公共の福祉」が極めて抽象的な概念であるだけに、人権制限が容易に肯定されるおそれが生じ、ひいては「公共の福祉」が明治憲法の法律の留保のような機能を実質的に果たすおそれがある。

 イ.「公共の福祉」にって制約される人権は経済的自由権社会権に限られ、その他の権利・自由には内在的制約が存在するにとどまり、憲法第13条は公共の福祉に反しない限り個人に権利・自由を尊重しなければならないという、言わば国家の心構えを表明したものであるという見解がある。しかし、このように同条の法規範性を否定する見解は、プライバシー権などの「新しい人権」を憲法上の人権として基礎付ける根拠を失わせる。

 ウ.すべての人権に論理必然的に内在する「公共の福祉」は、人権相互間に生じる矛盾・衝突の調整を図るための実質的公平の原理であり、例えば、社会権を実質的に保障するために自由権を制約する場合には必要な限度の規制が認められるという見解がある。しかし、この見解では、憲法第22条、第29条の「公共の福祉」が、結局、国の経済的・社会的政策という意味でとらえられることになり、広汎な裁量論の下で経済的自由権社会権の保障が不十分になるおそれがある。

 

ア 読解力の重要性

 上記の例の場合、「ア.」と「イ.」が正しいことは容易にわかります。これに対し、多くの人が迷うのが「ウ.」だと思います。全部一致型問題は、全ての肢の正誤がわからない限り完全な得点とならないため、一般に難しいとされます。

 しかし、問題形式が難しい以上、肢の内容が容易でなければ他の問題形式との均衡が取れません。

 そのため、全部一致型問題の肢は、文章を注意深く読めば解答可能な肢に出来上がっているといえます。上記の「ウ.」で言えば、前段では「すべての人権に」「内在する」「実質的公平の原理」だと述べておきながら、後段では「憲法第22条、第29条の『公共の福祉』」は「国の経済的・社会的政策」、すなわち外在的制約だとして、概念のすり替えが生じています。したがって、「ウ.」は誤っています。

 

イ 統計的手法の利用

 また、上記の例の場合、論理的には2×2×2=8通りの解答があり得ます。しかし、過去問(平成18年~平成23年)で統計を取ってみると、必ずしも8通りの解答は同じ確率で現れてはいません。

 すなわち、上記の例のように3つの肢の正誤が問題となる場合、全ての肢が「誤っている」ものは、過去問を通じて9つ見られるに過ぎません。さらに、全ての肢が「正しい」ものは、過去問を通じて1つしか存在しません。

 また、4つの肢の正誤が問題となる場合、全ての肢が「誤っている」ものは、過去問を通じて2つ見られるのみであり、全ての肢が「正しい」ものに至っては皆無です。

 このような統計を参照すると、上記の例の場合、「ア.」と「イ.」が正しいとわかった時点で、「ウ.」は少なくとも蓋然性のレベルでは誤っているものと推定できるわけです。

 

4.終わりに

 記事自体が長い上に、あまりに多くの内容を詰め込んだため、文意が上手く伝わらなかったかもしれません。

 しかし、繰り返し述べておきたいことは、① 基礎知識に加えて読解力・論理的思考力が問われていること、② 読解力・論理的思考力の用い方は、短答式一般に通じることもあるが(読解の方法など)、多くの場合問題類型ごとの準備が必要であること、③ 問題類型ごとのトレーニングとして過去問中心の勉強をすべきであること、です。

 いま一つ釈然としない方には、試しに過去問を1年分解き、間違えた問題についてその原因を検証してみることをお勧めします。自分で思っていた以上に知識以外のミスが多いことに気付くはずです。

 そのミスを全て得点に変えることができたら・・・?知識を増やすよりも、得点を伸ばす近道ではないでしょうか。

 

調査官解説は二度、三度美味しい【学生時代の記事の再掲】

 調査官解説は判例学習に最適な教材ですが、単に「説明」部分を読むだけではその効用を味わい尽くしたことにはなりません。今回は、調査官解説の読み方について、私なりの方法論をお伝えしたいと思います。

 

1.「事案の概要」を解く 

 これは、池田真朗ほか『判例学習のAtoZ』(有斐閣、2010年)を参考にしました。以下、引用します。

 

~引用開始~

 ① まず、判例(事実、判旨)を読むときは、必ず紙と鉛筆を用意すること。パソコンで判例データを見ている場合にも、よほどのパソコン作図等の達人でなければ、紙と鉛筆を用意してほしい。

 ② 最初にするべきことは、事実関係の把握・整理である。最初から判旨を読んではいけない(はじめに判旨を読んで次に解説を読むというのでは、正しい意味の判例の学習にならない。おそらくそれは、半分以上、学説の勉強になってしまう)。…(中略)…

 ③ 次に、登場人物が多数ある事案、当事者の主張が多岐にわたる事案については、必ず関係図を描いてほしい。…(中略)…。この関係図作りがうまくいくと、できあがった図を見ただけで、問題のありかがわかる。そして、さらによいことは、こういうくせをつけて学習していると、判例学習はそのまま各種試験における「事例問題」解答の訓練になるのである。

 ④ さらに、取引関係がいくつか重なっているケースでは、それらを時系列で整理してみることが有効である。時の流れを示す直線の上に、日付を入れた出来事メモを順番に書き込んでいくのである。

 ⑤ 以上のようにして、事実関係が詠み取れたら、次に、原告が何を求めてどんな訴えを提起したのか、を確認すること。…(中略)…

 ⑥ その次には、適用条文の確認である(まだ判旨を読んではいけない。)。この紛争を解決するために使われる法文は、何法の何条なのか、を想像し、その条文に当たって、規定内容を確認して、その条文では何が足りないのか、どんなことを足さないとこの紛争が解決しないのかを考えるのである。ここまでできれば、実はこれから読む判旨の内容は大方想像がつくことになる。この作業が非常に大事なのである。

 ⑦ さて、ようやくここで判旨を読むことになるのである。

~引用終わり~

 

 私はと言えば、時間との兼ね合い上、③関係図と④時系列は作っていません。その代わり、カラーマーカーを駆使して、詳しめに②事実関係の把握・整理を行います。カラーマーカーの色は論文式試験の問題文を読むときと同じものを使い、さながら問題文を読むように事実関係を読み進めていきます。

 いくつか調査官のまとめた「事実の概要」を読んでみると、それが論文式試験の問題文の文章に極めて似ていることに気付きます。もしかすると、問題文を作成するのは、試験委員の中でも実務家の委員、とりわけ裁判官や検察官なのかもしれません。

 

2.「判旨」を読む

 判決文をそのまま引用していることもあれば、重要な部分のみを抜粋している場合もあります。また、割愛した部分を「説明」に譲っている場合もあります。

 「判旨」を読むときもカラーマーカーを使っています。色については、赤:規範の要点、緑:理由付け等、青:事実、に分けています。

 「事実関係」と「判旨」で一区切りです。次は「説明」の読み方に移りたいと思います。

 

3.「説明」を読む

(1) カラーマーカーの色

 基本的に「判旨」を読むときと同様です。判例法理の言明と言えるような重要部分は赤、これに次ぐ重要部分は緑、事実及び考慮要素は青、にそれぞれ分けます。

 

(2) 取り上げられているのは当該事例だけではない

 多くの調査官解説において、「説明」部分は、a.問題の所在、b.裁判例、c.学説、d.本件の検討、から成り立っています。

 原則として、c.学説は読み飛ばして差し支えないと思います。どうしても気になるときは自分の基本書で確認します。

 最重要なのはd.本件の検討ですが、これに加えてb.裁判例をしっかり読み込むと、一つの調査官解説で複数の判例を学習することができます。

 b.裁判例には、当該判例の先例となる最高裁判決・下級審判決が、事実関係(要約)と判旨の形で紹介されています。先例としての位置付けも説明されています。これは特に短答式試験対策として有効だと思います。

 

(3) 形式面から学ぶ

 調査官の書く文章表現です。最近では特にこの点を意識して調査官解説を読んでいます。ナンバリングの振り方や見出しの表現、段落分け、接続詞の使い方など、さすが第一級の裁判官だけあってとても参考になります。

 

(4) 裁判所における学説の扱い

 「説明」部分では、ほぼ例外なく判示事項に関連する学説が言及されています。その限りで、裁判所は学説を尊重しています。

 もっとも、d.本件の検討を読むと、最高裁は学説で裁判をしているわけではないことがわかります。最高裁は学説を参照し、これを採用することがあっても、その理論的根拠等をひっくるめて学説に準拠するものではありません。あくまで判示事項に必要な限りでの参照にとどめています。その意味で、裁判所は学説から一歩高いところにいます。

 どうもこの辺りの意識が私たち学生には希薄なのかもしれません。

 

(5) 判決文の行間

 園部逸夫最高裁判事が調査官解説の意義について語った内容を引用します。

 「裁判の紹介・研究には、調査官の解説とコメントを必ず参照しなければならない」とし、その理由を「最高裁判所判例と解説は一体不可分の関係にある。補足意見を付けるまでには至らないが、評議で話題になり、協議されたことを後々の参考のために調査官の解説に譲っていることがよくある」ためとしている(Wikipedia - 「園部逸夫」より)。

 例えば、調査官解説では当該判例の射程についての見解が述べられることがあります。もちろん、調査官解説は判例そのものではないため、この部分に先例としての拘束力は全くありません。しかし、この部分こそが「試験」においてしばしば出題されていることはもはや言うまでもないことです。

 

(6) 当てはめを学ぶ

 「判決文にはただ事実が羅列されているだけで、どの事実をどのように考慮したかが不明である・・・」

 こんな印象を持っているのはきっと私だけではないはずです。上記のような理由で判決文を読むのが嫌いになった人もいるかもしれません。

 推測するに、最高裁は先例拘束を極力避ける傾向にあるため、判決文では考慮要素に言及しないのかもしれません。ところが、先例拘束力を有しない調査官解説では、こうした考慮要素についても説明が加えられています。

 これは特に刑事系でいい勉強になりました。

 

4.まとめ

 「判例が大事」とは誰もが知っていることですが、そう言われながらも判例の正しい学習の仕方を知っている人は意外に少ないように思います(これは私も含めての話ですが)。また、教員の側も判例の学習の仕方を丁寧に教えているという現状にはありません。

 当面、判例学習に役立つ書籍としては、文中で紹介した池田ほか『判例学習のAtoZ』のほか、中野次雄ほか『判例とその読み方 三訂版』(有斐閣、2009年)があります。

 

調査官解説百選

 ①事案としての奥深さ、②説明の網羅性、③「試験」における出題可能性、の三点に照らしてセレクトしてみました。

  

憲法

No.1 最判平成20.03.06(増森珠美)

住民基本台帳ネットワークシステムにより行政機関が住民の本人確認情報を収集,管理又は利用する行為と憲法13条

 

No.2 最判平成17.11.10(太田晃詳)

1 人の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影する行為と不法行為の成否

2 写真週刊誌のカメラマンが刑事事件の法廷において被疑者の容ぼう,姿態を撮影した行為が不法行為法上違法とされた事例

3 人の容ぼう,姿態を描写したイラスト画を公表する行為と不法行為の成否

4 刑事事件の法廷における被告人の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為法上違法とはいえないとされた事例

5 刑事事件の法廷において身体の拘束を受けている状態の被告人の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為法上違法とされた事例

 

No.3 最大判昭和60.10.23(高橋省吾)

一 福岡県青少年保護育成条例一〇条一項、一六条一項の規定憲法三一条

二 福岡県青少年保護育成条例一〇条一項の規定にいう「淫行」の意義

 

No.4 最大判平成1.03.08(門口正人)

一 法定で傍聴人がメモを取ることと憲法八二条一項

二 法廷で傍聴人がメモを取ることと憲法二一条一項

三 法廷警察権行使についての裁量の範囲

四 法廷でメモを取ることを報道機関の記者に対してのみ許可することと憲法一四条一項

五 法廷警察権の行使と国家賠償法一条一項の違法性

 

No.5 最判平成7.03.07(近藤崇晴

一 公の施設である市民会館の使用を許可してはならない事由として市立泉佐野市民会館条例(昭和三八年泉佐野市条例第二七号)七条一号の定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」の意義と憲法二一条、地方自治法二四四条

二 「関西新空港反対全国総決起集会」開催のための市民会館の使用許可の申請に対し市立泉佐野市民会館条例(昭和三八年泉佐野市条例第二七号)七条一号が使用を許可してはならない事由として定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」に当たるとして不許可とした処分が憲法二一条、地方自治法二四四条に違反しないとされた事例

 

No.6 最大判平成20.06.04(森英明)

1 国籍法3条1項が,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子につき,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した(準正のあった)場合に限り日本国籍の取得を認めていることによって国籍の取得に関する区別を生じさせていることと憲法14条1項 

2 日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子は,日本国籍の取得に関して憲法14条1項に違反する区別を生じさせている,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分(準正要件)を除いた国籍法3条1項所定の国籍取得の要件が満たされるときは,日本国籍を取得するか

 

No.7 最大判平成4.07.01(千葉勝美)

一 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和五九年法律第八七号による改正前のもの)三条一項一号と憲法二一条一項

二 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和五九年法律第八七号による改正前のもの)三条一項一号と憲法二二条一項

三 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和五九年法律第八七号による改正前のもの)三条一項一、二号と憲法二九条一、二項

四 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和五九年法律第八七号による改正前のもの)三条一項一、二号と憲法三一条

五 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和五九年法律第八七号による改正前のもの)三条一、三項と憲法三五条

 

No.8 最大判平成17.01.26(高世三郎)

1 地方公共団体が日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることと労働基準法3条,憲法14条1項

2 東京都が管理職に昇任するための資格要件として日本の国籍を有することを定めた措置が労働基準法3条,憲法14条1項に違反しないとされた事例

 

No.9 最大判平成17.09.14(杉原則彦

1 公職選挙法(平成10年法律第47号による改正前のもの)が在外国民の国政選挙における投票を平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙当時全く認めていなかったことと憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書

2 公職選挙法附則8項の規定のうち在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分と憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書

3 在外国民が次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員通常選挙における選挙区選出議員の選挙において在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えの適否

4 在外国民と次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員通常選挙における選挙区選出議員の選挙において投票をすることができる地位

5 国会議員の立法行為又は立法不作為国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける場合

6 平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙までに国会が在外国民の国政選挙における投票を可能にするための立法措置を執らなかったことについて国家賠償請求が認容された事例

 

行政法

No.10 最判平成18.02.07(川神裕)

1 公立学校施設の目的外使用の許否の判断と管理者の裁量権

2 学校教育法85条に定める学校教育上の支障の意義

3 公立学校施設の目的外使用の許否の判断の適否に関する司法審査の方法

4 公立小中学校等の教職員の職員団体が教育研究集会の会場として市立中学校の学校施設を使用することを不許可とした市教育委員会の処分が裁量権を逸脱したものであるとされた事例

 

No.11 最判平成21.10.15(清野正彦)

1 自転車競技法(平成19年法律第82号による改正前のもの)4条2項に基づく設置許可がされた場外車券発売施設の周辺に居住する者等は,いわゆる位置基準を根拠として上記許可の取消訴訟原告適格を有するか 

2 自転車競技法(平成19年法律第82号による改正前のもの)4条2項に基づく設置許可がされた場外車券発売施設の周辺において文教施設又は医療施設を開設する者は,いわゆる位置基準を根拠として上記許可の取消訴訟原告適格を有するか 

3 自転車競技法(平成19年法律第82号による改正前のもの)4条2項に基づく設置許可がされた場外車券発売施設の周辺において文教施設又は医療施設を開設する者が,いわゆる位置基準を根拠として上記許可の取消訴訟原告適格を有するか否かの判断基準 

4 自転車競技法(平成19年法律第82号による改正前のもの)4条2項に基づく設置許可がされた場外車券発売施設の周辺に居住する者等は,いわゆる周辺環境調和基準を根拠として上記許可の取消訴訟原告適格を有するか

 

No.12 最大判平成20.09.10(増田稔)

市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定と抗告訴訟の対象

 

No.13 最判平成21.12.17(倉地康弘)

東京都建築安全条例(昭和25年東京都条例第89号)4条3項に基づく安全認定が行われた上で建築確認がされている場合に,建築確認の取消訴訟において安全認定の違法を主張することの可否

 

No.14 最判平成11.11.19(大橋寛明)

一 住民監査請求に関する一件記録に含まれる関係人の事情聴取記録の逗子市情報公開条例(平成二年逗子市条例第六号)五条(2)ウ該当性

二 逗子市情報公開条例(平成二年逗子市条例第六号)五条(2)ウに該当することを理由として付記してされた公文書の非公開決定の取消訴訟において実施機関が当該公文書に他の非公開事由があると主張することの許否

三 住民監査請求に関する一件記録に含まれる関係人の事情聴取記録の逗子市情報公開条例(平成二年逗子市条例第六号)五条(2)ア該当性

 

No.15 最判平成19.01.25(増森珠美)

1 都道府県による児童福祉法27条1項3号の措置に基づき社会福祉法人の設置運営する児童養護施設に入所した児童を養育監護する施設の職員等と国家賠償法1条1項にいう公権力の行使に当たる公務員 

2 国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に加えた損害につき国又は公共団体が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合における使用者の民法715条に基づく損害賠償責任の有無

 

No.16 最判平成2.12.13(富越和厚)

一 工事実施基本計画に準拠して新規の改修、整備の必要がないものとされた河川における河川管理の瑕疵

二 河川の改修、整備がされた後に水害発生の危険の予測が可能となった場合における河川管理の瑕疵

三 河道内に許可工作物の存在する河川部分における河川管理の瑕疵

 

No.17 最判平成21.04.17(清野正彦)

1 出生した子につき住民票の記載を求める親からの申出に対し特別区の区長がした上記記載をしない旨の応答は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるか 

2 母がその戸籍に入る子につき適法な出生届を提出していない場合において,特別区の区長が住民である当該子につき上記母の世帯に属する者として住民票の記載をしていないことが違法ではないとされた事例

 

No.18 最判平成4.09.22(高橋利文)

 一 行政事件訴訟法三六条にいう「その効力の有無を前提とする現在の」法律関係に関する訴えによって目的を達することができない一の意義

二 設置許可申請に係る原子炉の周辺に居住する住民が右原子炉の設置者に対しその建設ないし運転の差止めを求める民事訴訟を提起している場合における右住民が提起した右原子炉の設置許可処分の無効確認の訴えの適法性

 

No.19 最判平成14.07.09(福井章代)

1 国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟の適否

2 地方公共団体が建築工事の中止命令の名あて人に対して同工事を続行してはならない旨の裁判を求める訴えが不適法とされた事例

 

民法

No.20 最判平成18.02.23(増森珠美)

不実の所有権移転登記がされたことにつき所有者に自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性があるとして民法94条2項,110条を類推適用すべきものとされた事例

 

No.21 最判平成18.01.17(松並重雄)

不動産の取得時効完成後に当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した者が背信的悪意者に当たる場合

 

No.22 最判平成17.02.22(志田原信三)

動産売買の先取特権者による物上代位権の行使と目的債権の譲渡

 

No.23 最判平成9.02.14(春日通良)

 所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後に右建物が取り壊されて新建物が建築された場合の法定地上権の成否

 

No.24 最判平成17.03.10(戸田久)

1 所有者から占有権原の設定を受けて抵当不動産を占有する者に対して抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる場合

2 抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり抵当権者が直接自己への抵当不動産の明渡しを請求することができる場合

3 第三者による抵当不動産の占有と抵当権者についての賃料額相当の損害の発生の有無

 

No.25 最判平成18.07.20(宮坂昌利)

1 動産譲渡担保が重複設定されている場合における後順位譲渡担保権者による私的実行の可否 

2 構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保の設定者が目的動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合における処分の相手方による承継取得の可否

 

No.26 最判平成19.07.06(宮坂昌利)

土地を目的とする先順位の甲抵当権が消滅した後に後順位の乙抵当権が実行された場合において,土地と地上建物が甲抵当権の設定時には同一の所有者に属していなかったが乙抵当権の設定時には同一の所有者に属していたときの法定地上権の成否

 

No.27 最判平成14.03.28(中村也寸志)

賃料債権に対する抵当権者の物上代位による差押えと当該債権への敷金の充当

 

No.28 最判平成5.03.30(井上繁規)

一 同一の債権について差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明である場合における差押債権者と債権譲受人との間の優劣

二 同一の債権について差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明である場合と当該債権に係る供託金の還付請求権の帰属

 

No.29 最判平成14.03.28(矢尾渉)

事業用ビルの賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了しても賃貸人が信義則上その終了を再転借人に対抗することができないとされた事例

 

No.30 最判平成5.10.19(大橋弘

建物建築工事の注文者と元請負人との間に出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合と一括下請負人が自ら材料を提供して築造した出来形部分の所有権の帰属

 

No.31 最判平成8.11.12(近藤崇晴

一 同一当事者間で締結された二個以上の契約のうち一の契約の債務不履行を理由に他の契約を解除することのできる場合

二 いわゆるリゾートマンションの売買契約と同時にスポーツクラブ会員権契約が締結された場合にその要素たる債務である屋内プールの完成の遅延を理由として買主が右売買契約を民法五四一条により解除することができるとされた事例

 

No.32 最判平成13.11.22(瀬戸口壮夫)

遺留分減殺請求権を債権者代位の目的とすることの可否

 

No.33 最判平成12.03.09(高部眞規子)

一 離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意が詐害行為に該当する場合の取消しの範囲

二 離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意と詐害行為取消権

 

No.34 最判平成4.12.10(田中豊)

一 親権者の代理権濫用の行為と民法九三条ただし書 

二 親権者において子を代理してその所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為と代理権の濫用

 

No.35 最判平成10.02.26(山下郁夫)

内縁の夫婦による共有不動産の共同使用と一方の死亡後に他方が右不動産を単独で使用する旨の合意の推認

 

No.36 最判平成16.11.12(松並重雄)

1 階層的に構成されている暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に同暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立しているとされた事例

2 階層的に構成されている暴力団の下部組織における対立抗争においてその構成員がした殺傷行為が民法715条1項にいう「事業ノ執行ニ付キ」した行為に当たるとされた事例

 

(商法)

No.37 最決平成19.08.07(森冨義明)

1 株主平等の原則の趣旨は株主に対して新株予約権の無償割当てをする場合に及ぶか 

2 株主に対する差別的取扱いが株主平等の原則の趣旨に反しない場合 

3 特定の株主による経営支配権の取得に伴い,株式会社の企業価値がき損され,株主の共同の利益が害されることになるか否かについての審理判断の方法 

4 株式会社が特定の株主による株式の公開買付けに対抗して当該株主の持株比率を低下させるためにする新株予約権の無償割当てが,株主平等の原則の趣旨に反せず,会社法247条1号所定の「法令又は定款に違反する場合」に該当しないとされた事例 

5 株式会社が特定の株主による株式の公開買付けに対抗して当該株主の持株比率を低下させるためにする新株予約権の無償割当てが,会社法247条2号所定の「著しく不公正な方法により行われる場合」に該当しないとされた事例

 

No.38 最判平成18.04.10(太田晃詳)

1 いわゆる仕手筋として知られるAが大量に取得したB社の株式を暴力団の関連会社に売却するなどとB社の取締役であるYらを脅迫した場合においてAの要求に応じて巨額の金員を交付することを提案し又はこれに同意したYらの忠実義務,善管注意義務違反が問われた行為について過失を否定することができないとされた事例 

2 会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為と商法(平成12年法律第90号による改正前のもの)294条ノ2第1項にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」利益を供与する行為

 

No.39 最決平成17.12.13(山田耕司)

新株の引受人が会社から第三者を通じて間接的に融資を受けた資金によってした新株の払込みが無効であるとして商業登記簿の原本である電磁的記録に増資の記録をさせた行為につき電磁的公正証書原本不実記録罪の成立が認められた事例

 

No.40 最判平成9.01.28(近藤崇晴

商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知を欠くことと新株発行の無効原因

 

No.41 最判平成11.03.25(八木一洋)

取締役等を選任する甲株主総会決議の不存在確認請求に同決議が存在しないことを理由とする後任取締役等の選任に係る乙株主総会決議の不存在確認請求が併合されている場合における先の決議の存否確認の利益

 

No.42 最判平成2.12.04(篠原勝美)

一 商法二〇三条二項所定の指定及び通知を欠く株式の共同相続人と株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格

二 商法二〇三条二項所定の指定及び通知を欠く株式の共同相続人が株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格を有するとされた事例

 

No.43 最判平成6.01.20(野山宏)

一 商法二六〇条二項一号にいう重要な財産の処分に当たるか否かの判断基準

二 会社の総資産の約一・六パーセントに相当する価額の株式の譲渡が商法二六〇条二項一号にいう重要な財産の処分に当たらないとはいえないとされた事例

 

No.44 最判昭和60.12.20(篠原勝美)

一 株式会社のいわゆる全員出席総会における決議の効力

二 株主の代理人の出席を含むいわゆる全員出席総会における決議が有効となる場合

 

(民訴法)

No.45 最決平成13.01.30(高部眞規子)

取締役会の意思決定が違法であるとして取締役に対し提起された株主代表訴訟において株式会社が取締役を補助するため訴訟に参加することの許否

 

No.46 最判平成10.04.30(長沢幸男)

訴訟上の相殺の抗弁に対し訴訟上の相殺を再抗弁として主張することの許否

 

No.47 最判平成18.04.14(増森珠美)

反訴請求債権を自働債権とし本訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁の許否

 

No.48 最判平成16.07.06(太田晃詳)

共同相続人間における相続人の地位不存在確認の訴えと固有必要的共同訴訟

 

No.49 最判平成10.06.12(山下郁夫)

金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することの許否

 

No.50 最判平成17.07.15(松並重雄)

第三者異議の訴えの原告についての法人格否認の法理の適用

 

No.51 最判平成7.12.15(井上繁規)

建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結後における建物買取請求権の行使と請求異議の訴え

 

No.52 最判昭和61.07.17(平田浩)

将来の賃料相当損害金の請求を認容する判決が確定した場合においてその後公租公課の増大等により認容額が不相当となつたときと損害金の追加請求

 

No.53 最判昭和52.04.15(東條敬)

書証の成立の真正についての自白の裁判所に対する拘束力

 

(刑法)

No.54 最決平成16.03.22(平木正洋)

1 被害者を失神させた上自動車ごと海中に転落させてでき死させようとした場合につき被害者を失神させる行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手があるとされた事例

2 いわゆる早過ぎた結果の発生と殺人既遂の成否

 

No.55 最決平成16.08.25(上田哲)

公園のベンチ上に置き忘れられたポシェットを領得した行為が窃盗罪に当たるとされた事例

 

No.56 最決平成16.10.19(上田哲)

高速道路上に自車及び他人が運転する自動車を停止させた過失行為と自車が走り去った後に上記自動車に後続車が追突した交通事故により生じた死傷との間に因果関係があるとされた事例

 

No.57 最決平成15.05.01(芦澤政治)

暴力団組長である被告人が自己のボディガードらのけん銃等の所持につき直接指示を下さなくても共謀共同正犯の罪責を負うとされた事例

 

No.58 最判平成16.12.10(大野勝則)

窃盗の犯人による事後の脅迫が窃盗の機会の継続中に行われたとはいえないとされた事例

 

No.59 最決平成15.12.09(多和田隆史)

甲が乙を欺いて金員を交付させるに当たり甲及び乙が別途丙を欺いて丙から甲に上記金員を交付させた場合と甲の乙に対する詐欺罪の成否

 

No.60 最決平成1.07.14(香城敏磨)

複数の建物が廻廊等により接続されていた神宮社殿が一個の現住建造物に当たるとされた事例

 

No.61 最決昭和61.06.27(安廣文夫)

公文書の内容に改ざんを加えたうえそのコピーを作成した場合の擬律

 

No.62 最決昭和62.07.16(仙波厚)

百円紙幣を模造する行為につき違法性の意識の欠如に相当の理由があるとはいえないとされた事例

 

No.63 最決昭和62.03.26(岩瀬徹)

傷害致死につき誤想過剰防衛であるとされた事例

 

No.64 最決昭和61.11.18(安廣文夫)

いわゆる一項強盗による強盗殺人未遂罪ではなく窃盗罪又は詐欺罪といわゆる二項強盗による強盗殺人未遂罪との包括一罪になるとされた事例

 

No.65 最判昭和60.09.12(安廣文夫)

殺人につき防衛の意思を欠くとはいえないとされた事例

 

No.66 最決平成13.10.25(平木正洋)

刑事未成年者に指示命令して強盗を実行させた者につき強盗の共同正犯が成立するとされた事例

 

No.67 最決平成17.07.04(藤井敏明)

重篤な患者の親族から患者に対する「シャクティ治療」(判文参照)を依頼された者が入院中の患者を病院から運び出させた上必要な医療措置を受けさせないまま放置して死亡させた場合につき未必的殺意に基づく不作為による殺人罪が成立するとされた事例

 

No.68 最決昭和55.11.13(神作良二)

一 被害者の承諾と傷害罪の成否

二 被害者の承諾が傷害行為の違法性を阻却しないとされた事例

 

No.69 最決平成16.02.09(多和田隆史)

クレジットカードの名義人に成り済まし同カードを利用して商品を購入する行為が詐欺罪に当たるとされた事例

 

No.70 最決平成4.06.05(小川正持

一 共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否の判断方法

二 殺人の共同正犯者中の一人に過剰防衛が成立する場合に他の一人について過剰防衛が成立しないとされた事例

 

No.71 最決平成15.10.06(平木正洋)

正規の国際運転免許証に酷似する文書をその発給権限のない団体の名義で作成した行為が私文書偽造罪に当たるとされた事例

 

No.72 最決平成1.06.26(原田國男)

共犯関係が解消していないとされた事例

 

No.73 最判平成1.11.13(川口宰護)

刑法三六条一項にいう「巳ムコトヲ得サルニ出テタル行為」に当たるとされた事例

 

No.74 最決昭和55.10.30(木谷明)

 窃盗罪の成立に必要な不正領得の意思があるとされた事例

 

No.75 最決平成20.06.25(松田俊哉)

正当防衛に当たる暴行及びこれと時間的,場所的に連続して行われた暴行について,両暴行を全体的に考察して1個の過剰防衛の成立を認めることはできないとされた事例

 

(刑訴法)

No.76 最判昭和50.04.03(香城敏磨)

一、現行犯逮捕のため犯人を追跡した者の依頼により追跡を継続した行為を適法な現行犯逮捕の行為と認めた事例

二、現行犯逮捕のための実力行使と刑法三五条

三、現行犯逮捕のための実力行使に刑法三五条が適用された事例

 

No.77 最決平成13.04.11(池田修)

1 殺害の日時・場所・方法の判示が概括的で実行行為者の判示が択一的であっても殺人罪の罪となるべき事実の判示として不十分とはいえないとされた事例

2 殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が明示された場合に訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することの適否

3 殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が被告人と明示された場合に訴因変更手続を経ることなく実行行為者が共犯者又は被告人あるいはその両名であると択一的に認定したことに違法はないとされた事例

 

No.78 最決平成17.07.19(山田耕司)

治療の目的で救急患者から尿を採取して薬物検査をした医師の通報を受けて警察官が押収した上記尿につきその入手過程に違法はないとされた事例

 

No.79 最決平成17.09.27(芦澤政治)

捜査官が被害者や被疑者に被害・犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証の証拠能力

 

No.80 最決平成17.10.12(上田哲)

「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」5条違反の罪の公訴事実が多数回にわたり多数人に譲り渡した旨の概括的記載を含んでいても訴因の特定として欠けるところはないとされた事例

 

No.81 最決平成19.02.08(入江猛)

被疑者方居室に対する捜索差押許可状により同居室を捜索中に被疑者あてに配達され同人が受領した荷物について同許可状に基づき捜索することの可否

 

No.82 最決平成18.11.07(芦澤政治)

刑訴法328条により許容される証拠

 

No.83 最判平成15.02.14(朝山芳史)

1 逮捕当日に採取された被疑者の尿に関する鑑定書の証拠能力が逮捕手続に重大な違法があるとして否定された事例

2 捜索差押許可状の発付に当たり疎明資料とされた被疑者の尿に関する鑑定書が違法収集証拠として証拠能力を否定される場合において同許可状に基づく捜索により発見押収された覚せい剤等の証拠能力が肯定された事例

 

No.84 最決平成15.05.26(永井敏雄)

1 警察官がホテル客室に赴き宿泊客に対し職務質問を行った際ドアが閉められるのを防止した措置が適法とされた事例

2 警察官がホテル客室において宿泊客を制圧しながら所持品検査を行って発見した覚せい剤について証拠能力が肯定された事例

 

No.85 最決平成15.11.26(山田耕司)

大韓民国の裁判所に起訴された共犯者の公判廷における供述を記載した同国の公判調書と刑訴法321条1項3号にいう「特に信用すべき情況」

 

No.86 最決平成3.07.16(木谷直人)

錯乱状態に陥り任意の尿の提出が期待できない状況において実施された強制採尿手続に違法はないとされた事例

 

No.87 最決平成20.08.27(三浦透)

火災原因の調査,判定に関し特別の学識経験を有する私人が燃焼実験を行ってその考察結果を報告した書面について,刑訴法321条3項は準用できないが,同条4項の書面に準じて同項により証拠能力が認められるとされた事例

 

No.88 最決平成12.07.17(後藤眞理子)

いわゆるMCT118DNA型鑑定の証拠としての許容性

 

No.89 最決昭和53.03.06(香城敏磨)

枉法収賄と贈賄の各訴因の間に公訴事実の同一性が認められる事例

 

No.90 最決平成12.07.12(稗田雅洋)

相手方の同意を得ないで相手方との会話を録音したテープの証拠能力が認められた事例

 

No.91 最決昭和52.08.09(新矢悦二)

甲事実について逮捕勾留中の被疑者を乙事実について取調べることが違法ではないとされた事例

 

No.92 最決平成16.07.12(多和田隆史)

1 おとり捜査の許容性

2 大麻の有償譲渡を企図していると疑われる者を対象にして行われたおとり捜査が適法とされた事例

 

No.93 最決平成14.10.04(永井敏雄)

捜索差押許可状の呈示に先立ってホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置が適法とされた事例

 

No.94 最決平成10.05.01(池田修)

フロッピーディスク等につき内容を確認せずに差し押さえることが許されるとされた事例

 

No.95 最決平成8.01.29(木口信之)

一 刑訴法二一二条二項にいう「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるとき」に当たるとされた事例

二 逮捕した被疑者を最寄りの場所に連行した上でその身体又は所持品について行われた捜索及び差押えと刑訴法二二〇条一項二号にいう「逮捕の現場」

三 逮捕した被疑者を最寄りの警察署に連行した上でその装着品及び所持品について行われた差押え手続が刑訴法二二〇条一項二号による差押えとして適法とされた事例

 

No.96 最決平成6.09.08(小川正持

甲の居住する場所に対する捜索差押許可状によって、そこに同居する乙がその場で携帯していたボストンバッグについて捜索することの適否

 

No.97 最判平成7.06.20(池田耕平)

一 退去強制によって出国した者の検察官に対する供述調書の証拠能力

二 退去強制によって出国した者の検察官に対する供述調書について証拠能力が認められた事例

 

No.98 最決平成20.04.15(鹿野伸二)

1 捜査機関が公道上及びパチンコ店内にいる被告人の容ぼう,体型等をビデオ撮影した捜査活動が適法とされた事例 

2 捜査機関が公道上のごみ集積所に不要物として排出されたごみを領置することの可否

 

No.99 最決平成1.07.04(出田孝一)

被疑者に対する長時間の取調べが任意捜査として許容される限度を逸脱したものとまではいえないとされた事例

 

No.100 最決平成6.09.16(中谷雄二郎)

一 いわゆる強制採尿令状により採尿場所まで連行することの適否

二 任意同行を求めるため被疑者を職務質問の現場に長時間違法に留め置いたとしてもその後の強制採尿手続により得られた尿の鑑定書の証拠能力は否定されないとされた事例

 

 

司法修習生の就職活動考 ~公募に頼らない就職活動~

1 問題意識

 元日付けの「日弁連新聞」の報道を引用するまでもなく、司法修習生の就職難は深刻です。

 しかも、就職が決まらない理由は当の本人にもわからないことが多く、終わりの見えない就職活動に途方に暮れるしかありません。私自身、就職活動には非常に苦労し、一時は就活うつになるんじゃないかというほど落ち込んだ時期もありました。

 しかし、就職活動を終えてみて、なかなか就職が決まらないのは本人の能力の問題ではなく構造的な問題であること、そして(逆説的ですが)この就職難は個々の司法修習生の工夫によって乗り越えられることに気付きました。

 そこで、今回は司法修習生の就職活動に関する私の考えをまとめてみようと思います。

 

2 司法修習生の就職活動の現状

(1) 法律事務所の分類

 

 

     公募している

      公募していない

人気が高い

 

        ①

       競争過多

        

         ③

       競争少なめ

人気がない

 

       ②

     競争少なめ

 

         ④

         競争なし

  

 司法修習生の就職活動の対象となる法律事務所を分類すると、以上の図の通りになると思います。すなわち、①公募しており、人気の高い事務所、②公募しているが、人気のない事務所、③公募していないが、人気の高い事務所、④公募しておらず、人気もない事務所です。

 

① 公募しており、人気の高い事務所

 その典型例は、東京や大阪といった大都市の有名事務所や伝統のある事務所です。成長が期待できる、待遇が良い、カッコイイなどの理由により、司法修習生の人気が非常に高いです。そのため、狭い採用枠をめぐり競争は極めて激しくなります(求人倍率が数百倍になることもあると聞きます)。

 

② 公募しているが、人気のない事務所

 ひまわり求人ナビに求人は載っているが、司法修習生があまり応募しない事務所です。地方にある事務所や様々な理由でクセのある事務所、評判の悪い事務所、待遇が劣悪な事務所などがこれに当たります。

 個々の司法修習生との相性によっては良い事務所になりますが、いわゆる一般受けしないため、相対的に人気は低くなっています。

 

③ 公募していないが、人気の高い事務所

 地域では名門と言われる事務所がこれに当たります。口コミで司法修習生が集まるため、あえて公募していないというところも多いです。

 

④ 公募しておらず、人気のない事務所

 司法修習生の目に触れること自体が少ないですが、②と同様、個々の司法修習生との相性によっては良い事務所になります。

 

(2) 就職活動の現状

 66期司法修習生の就職活動を振り返ってみると、公募のみに頼って就職活動している人が大半でした。

 先に述べた通り、①に分類される法律事務所は競争過多です。そのような法律事務所に合計100通近い履歴書を送り、一つも内定を得られない人もざらではありません。

 そのため、当初は①の事務所を中心に応募し、内定が得られないことがわかると徐々に人気のない事務所、すなわち先の分類でいう②の事務所への応募を始め、内定を得ていくというのが多くの司法修習生にとっての就職活動であったように思います。

 

(3) 現状を打開するためには

 しかし、①及び②の事務所の絶対数は限られています。それにもかかわらず、大半の司法修習生が①と②の事務所ばかりを目指して就職活動をしているのですから、就職にあぶれる人が出てくるのは必然だと思います。

 また、個々の司法修習生にとっても、①の事務所に就職できないから②の事務所に手を伸ばし、それでも決まらないからどんどん条件を下げ・・・、とやっているとすぐにジリ貧になってしまいます。

  そこで、公募していない③及び④の事務所へのアプローチの仕方を学ぶことは、個々の司法修習生にとって、また法曹界全体にとっての課題なのではないでしょうか。

 以下では、そのような非公募事務所への就職活動の方法を検討していきます。

 

3 公募に頼らない就職活動

(1) 非公募事務所への内定の条件

 公募していない法律事務所の場合、採用の門戸を開いてもらうためには、何よりもまずその事務所のボスにアプローチする必要があります。

 ただし、事務所のボスと直接知り合い、気軽に言葉を交わすことができるならいいですが、期の古い先生だと公の場に出てくること自体が少なく、また仮に出てきたとしても気軽に言葉を交わすことは普通の司法修習生にとって困難です。そのため、実際には、そのボスとつながりを持っている人(事務所のイソ弁、会内の弁護士など)から紹介をしてもらうのがセオリーということになります。

 したがって、以下では、①事務所のボスまたは紹介者と出会うためにはどうしたらよいか、そして②ボスによる採用や紹介者による紹介を得るためにはどうしたらよいかを検討していきます。

 

(2) ボス・紹介者と出会うためには

 まず、従来からの知り合いを頼る方法があります。親族や友人、大学・ロースクールの恩師などが考えられます。

 また、修習地では、指導担当弁護士や修習先の所属弁護士はもちろん、委員会活動などを通じて弁護士会内の他の弁護士と知り合うこともできます。そのような意味では、修習地で採用口を探すのが最も有効な活動だと言えそうです。

 さらに、他会の弁護士と知り合う方法もあります。

 例えば、日弁連が開く就職相談会には様々な地域の弁護士がチューターとして参加しているので、就職を希望する地域の弁護士がいたら積極的に頼ってみると良いと思います。また、イベントや勉強会などには積極的に顔を出すと良いと思います。

 要するに、弁護士との出会いに制限はなく、興味のある場所には果敢に飛び込んでいくといいでしょう。 

 

(3) ボスによる採用や紹介者による紹介を得るためには

ア 私がなかなか内定を得られなかった理由

 しかし、単に弁護士との出会いを増やすだけでは、採用や採用につながる紹介を受けることはできません。

 なぜなら、多忙な弁護士にとって、懇意でもない司法修習生の就職は結局他人事であり、様々な負担を背負って採用や採用につながる紹介をしようという気にはならないためです。

 私自身、一時期弁護士の知り合いをものすごく増やした時期がありましたが、結局そこから採用や採用につながる紹介を受けることはできませんでした。

 その理由は、私が、その先生方に就職のことを親身に考えてもらうことができなかったからです。

 

イ 積極的に甘えること

  では、事務所のボスや紹介者に親身になってもらうにはどうしたらよいか。それは結局、相手に甘えることに尽きると思います。

 具体的に言えば、「弁護士になる強い熱意を持っている、就職活動も頑張ってる、それなのに就職が決まらない、○○先生助けてください!」という一言が言えるかどうかだと思います。これが言える人はすぐに就職が決まります。

 私の場合、困った末に助けを求めたのは指導担当弁護士でした。そうしたところ、指導担当弁護士が今の事務所を紹介して下さり、1か月後には無事に内定を得ることができました。

 弁護士は多忙です。助けを求めてこない司法修習生に対しては大丈夫だろうと判断し、手を差し伸べることはしません。

 しかし、自分に助けを求めてくる司法修習生は、何があっても助けようとします。それが職業精神であるのかもしれません。

 

4 最後に

(1) 司法修習生に欠けていること

 以上をまとめると、①採用や紹介のツテを探して弁護士の集まりに参加していくことのできる積極性と②他人に甘えることのできる謙虚さがあると、非公募での就職活動が上手くいくと思います。

 しかし、司法修習生の多くは、これに反して①'引っ込み思案であり、②'プライドが高く甘え下手なのではないでしょうか。私自身、そのような人間であったため、就職活動には苦労しました。

 ただ、一応司法修習を終えた者として、今の司法修習生にアドバイスするとしたら、次の通りになると思います。

 

(2) 自信を持っていこう

 弁護士の集まりに参加するのをためらうのは、自分が参加したら先生方に迷惑ではないか、図々しいと思われるのではないかと考えてしまうためではないでしょうか。

 しかし、弁護士はほぼ例外なく司法修習生が大好きです。なぜなら、自分自身がかつて司法修習生だったからです。

 したがって、諸先輩方に教わる姿勢を持って、集まりにはどんどん参加しましょう。

 さらに言えば、司法修習生はもっと自信を持つべきです。

 司法試験に合格するというのはやはり立派なことです。法曹になるという目標を立て、堅実に努力し、ついに目標を達成したのですから。

 胸を張っていきましょう。

 

(3) 承認欲求と就職活動を切り離そう

 人には誰しも誰かに認めてもらいたいという欲求があります。そのため、就職活動では、採用側に能力を認めてもらい、大げさに言えば「是非ともうちに来てもらいたい!」と請われて就職したいと考えてしまいます。

 しかし、本記事で書いた通り、司法修習生の就職活動で必要なのは必ずしも能力ではありません。

 したがって、承認を求めて就職活動をするのはやめましょう。内定のある周りの同期も、ボスから能力を見込まれて内定を得ているわけではありません。

 私のボスは、新人弁護士は「殻のついたヒヨコ」だと言っています。孵化したばかりの未熟な存在という意味です。

 熟練の弁護士から見たら新人なんてそんなものです。どうしても認めてもらいたいのであれば、就職した後、仕事を通して認めてもらいましょう。

 

(4) 就職活動を楽しむ

 最後に、非公募の就職活動は楽しいです。

 弁護士をはじめとする様々な人と出会い、話をする中でたくさんのことを学び、最終的に人格や識見に惚れ込んだボスに仕えることができます。

 公募に頼った就職活動に行き詰りを感じている方がいたら、一旦立ち止まって、他の方法がないか考えてみてください。