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調査官解説は二度、三度美味しい【学生時代の記事の再掲】

 調査官解説は判例学習に最適な教材ですが、単に「説明」部分を読むだけではその効用を味わい尽くしたことにはなりません。今回は、調査官解説の読み方について、私なりの方法論をお伝えしたいと思います。

 

1.「事案の概要」を解く 

 これは、池田真朗ほか『判例学習のAtoZ』(有斐閣、2010年)を参考にしました。以下、引用します。

 

~引用開始~

 ① まず、判例(事実、判旨)を読むときは、必ず紙と鉛筆を用意すること。パソコンで判例データを見ている場合にも、よほどのパソコン作図等の達人でなければ、紙と鉛筆を用意してほしい。

 ② 最初にするべきことは、事実関係の把握・整理である。最初から判旨を読んではいけない(はじめに判旨を読んで次に解説を読むというのでは、正しい意味の判例の学習にならない。おそらくそれは、半分以上、学説の勉強になってしまう)。…(中略)…

 ③ 次に、登場人物が多数ある事案、当事者の主張が多岐にわたる事案については、必ず関係図を描いてほしい。…(中略)…。この関係図作りがうまくいくと、できあがった図を見ただけで、問題のありかがわかる。そして、さらによいことは、こういうくせをつけて学習していると、判例学習はそのまま各種試験における「事例問題」解答の訓練になるのである。

 ④ さらに、取引関係がいくつか重なっているケースでは、それらを時系列で整理してみることが有効である。時の流れを示す直線の上に、日付を入れた出来事メモを順番に書き込んでいくのである。

 ⑤ 以上のようにして、事実関係が詠み取れたら、次に、原告が何を求めてどんな訴えを提起したのか、を確認すること。…(中略)…

 ⑥ その次には、適用条文の確認である(まだ判旨を読んではいけない。)。この紛争を解決するために使われる法文は、何法の何条なのか、を想像し、その条文に当たって、規定内容を確認して、その条文では何が足りないのか、どんなことを足さないとこの紛争が解決しないのかを考えるのである。ここまでできれば、実はこれから読む判旨の内容は大方想像がつくことになる。この作業が非常に大事なのである。

 ⑦ さて、ようやくここで判旨を読むことになるのである。

~引用終わり~

 

 私はと言えば、時間との兼ね合い上、③関係図と④時系列は作っていません。その代わり、カラーマーカーを駆使して、詳しめに②事実関係の把握・整理を行います。カラーマーカーの色は論文式試験の問題文を読むときと同じものを使い、さながら問題文を読むように事実関係を読み進めていきます。

 いくつか調査官のまとめた「事実の概要」を読んでみると、それが論文式試験の問題文の文章に極めて似ていることに気付きます。もしかすると、問題文を作成するのは、試験委員の中でも実務家の委員、とりわけ裁判官や検察官なのかもしれません。

 

2.「判旨」を読む

 判決文をそのまま引用していることもあれば、重要な部分のみを抜粋している場合もあります。また、割愛した部分を「説明」に譲っている場合もあります。

 「判旨」を読むときもカラーマーカーを使っています。色については、赤:規範の要点、緑:理由付け等、青:事実、に分けています。

 「事実関係」と「判旨」で一区切りです。次は「説明」の読み方に移りたいと思います。

 

3.「説明」を読む

(1) カラーマーカーの色

 基本的に「判旨」を読むときと同様です。判例法理の言明と言えるような重要部分は赤、これに次ぐ重要部分は緑、事実及び考慮要素は青、にそれぞれ分けます。

 

(2) 取り上げられているのは当該事例だけではない

 多くの調査官解説において、「説明」部分は、a.問題の所在、b.裁判例、c.学説、d.本件の検討、から成り立っています。

 原則として、c.学説は読み飛ばして差し支えないと思います。どうしても気になるときは自分の基本書で確認します。

 最重要なのはd.本件の検討ですが、これに加えてb.裁判例をしっかり読み込むと、一つの調査官解説で複数の判例を学習することができます。

 b.裁判例には、当該判例の先例となる最高裁判決・下級審判決が、事実関係(要約)と判旨の形で紹介されています。先例としての位置付けも説明されています。これは特に短答式試験対策として有効だと思います。

 

(3) 形式面から学ぶ

 調査官の書く文章表現です。最近では特にこの点を意識して調査官解説を読んでいます。ナンバリングの振り方や見出しの表現、段落分け、接続詞の使い方など、さすが第一級の裁判官だけあってとても参考になります。

 

(4) 裁判所における学説の扱い

 「説明」部分では、ほぼ例外なく判示事項に関連する学説が言及されています。その限りで、裁判所は学説を尊重しています。

 もっとも、d.本件の検討を読むと、最高裁は学説で裁判をしているわけではないことがわかります。最高裁は学説を参照し、これを採用することがあっても、その理論的根拠等をひっくるめて学説に準拠するものではありません。あくまで判示事項に必要な限りでの参照にとどめています。その意味で、裁判所は学説から一歩高いところにいます。

 どうもこの辺りの意識が私たち学生には希薄なのかもしれません。

 

(5) 判決文の行間

 園部逸夫最高裁判事が調査官解説の意義について語った内容を引用します。

 「裁判の紹介・研究には、調査官の解説とコメントを必ず参照しなければならない」とし、その理由を「最高裁判所判例と解説は一体不可分の関係にある。補足意見を付けるまでには至らないが、評議で話題になり、協議されたことを後々の参考のために調査官の解説に譲っていることがよくある」ためとしている(Wikipedia - 「園部逸夫」より)。

 例えば、調査官解説では当該判例の射程についての見解が述べられることがあります。もちろん、調査官解説は判例そのものではないため、この部分に先例としての拘束力は全くありません。しかし、この部分こそが「試験」においてしばしば出題されていることはもはや言うまでもないことです。

 

(6) 当てはめを学ぶ

 「判決文にはただ事実が羅列されているだけで、どの事実をどのように考慮したかが不明である・・・」

 こんな印象を持っているのはきっと私だけではないはずです。上記のような理由で判決文を読むのが嫌いになった人もいるかもしれません。

 推測するに、最高裁は先例拘束を極力避ける傾向にあるため、判決文では考慮要素に言及しないのかもしれません。ところが、先例拘束力を有しない調査官解説では、こうした考慮要素についても説明が加えられています。

 これは特に刑事系でいい勉強になりました。

 

4.まとめ

 「判例が大事」とは誰もが知っていることですが、そう言われながらも判例の正しい学習の仕方を知っている人は意外に少ないように思います(これは私も含めての話ですが)。また、教員の側も判例の学習の仕方を丁寧に教えているという現状にはありません。

 当面、判例学習に役立つ書籍としては、文中で紹介した池田ほか『判例学習のAtoZ』のほか、中野次雄ほか『判例とその読み方 三訂版』(有斐閣、2009年)があります。