弁護ハック!-若手弁護士によるライフハックブログ

「弁護士 × ライフハック × 知的生産」をテーマに、若手弁護士が日々の”気付き”を綴ります。

若手弁護士の独立・経営体験記

第1 はじめに

 随分久しぶりのブログ更新となりました。

 独立開業してからの出来事をいつか記事にしたいと考えてきましたが、昨年以来、仕事と事務所経営に忙殺され、ブログの更新ができずにいました。しかし、最近になって少し時間的な余裕ができるとともに、過去の出来事を客観的に振り返るだけの精神的な余裕ができたことから、今回、記事として公開することにしました。

 本記事が、主にこれから独立する後輩の弁護士の役に立てば幸いです。


第2 自己紹介 

 まず、私のブログを初めて読む人のために、自己紹介を兼ねて、これまでの経歴を説明しておこうと思います。

 私は、司法修習66期、現在4年目の弁護士です。千葉県において司法修習を過ごし、そのまま千葉市中央区の法律事務所(私が入所した当時は弁護士6名。)において勤務を開始しました。いわゆるイソ弁(勤務弁護士)としてのスタートでした。

 私は、元々、将来は独立して自分の事務所を持ちたいと思っていました。司法修習生時代の就職活動では非常に苦労しましたが*1、縁あって前記事務所に採用していただきました。その事務所の所長は、「勤務弁護士は3年で独立させる」という方針でこれまで多くの弁護士を育ててきており、私は、同事務所において弁護士としての実力を養い、ゆくゆくは独立することを目指して弁護士としてのキャリアをスタートすることになりました。

 しかし、勤務開始から1年半が経とうとしていた頃、所長が急病に倒れました。それ以降、所長は事務所に出られなくなり、事務所の体制は、数期上の先輩弁護士主導の体制へと大きく転換しました。

 前記のとおり3年で独立することを目標にしていた私は、その当時、「成長すること」を主たるモチベーションとして仕事をしていました。ところが、ロールモデルと考えていた所長が倒れたことによって、このまま事務所に居続ける意味がわからなくなりました。その結果、事務所に残るか、成長できる他事務所に移るか、それとも予定を前倒しして独立するかという選択肢に直面することとなりました。

 そして、様々な出来事があった後、結局、私は、弁護士2年目の終わりに独立することとなりました。


第3 「あらた法律事務所」の設立

 2015年11月21日、私は前事務所を独立して、「あらた法律事務所」を設立しました。

 資金もなく、固定客もいない状態からの独立だったので、賃料月額6万円、面積4坪弱のレンタルオフィスからのスタートでした*2。当然、事務職員など雇うことはできず、正本・副本等の作成から裁判所・郵便局への外回りまで、事務仕事は全て自分でこなしていました。当初は、外出時の電話も全て携帯電話に転送しており、一人で何人分もの仕事をしている感覚でした。

 もっとも、経費はひたすら安かったので(広告費を除けば、弁護士会費を含めて月15万円弱)、これはこれでユートピアでした。地方(東京23区以外)の法律事務所だと、いわゆるリーガルサービス(弁護士会や法テラスが配点する法律相談、国選弁護、当番弁護等)の配点がまだ豊富にあり、その配点(譲り受けを含む。)だけで一定程度の売上を確保することができました。また、その年の12月からは弁護士ドットコム*3への掲載を始めたところ、同サイトからは毎日のように電話問合せがあり、月に4~5件のペースで新件受任があったため(ただし、2015年~2016年当時)、所得(売上-経費)という点ではかなり安定していました。

 しかし、受任する事件を全て自分一人で処理するという体制は、次第に息切れを起こすようになりました。また、新しい法律事務所を作りたい、業務改革を先導していきたいという想いを込めて「あらた」法律事務所という名称を付けたにもかかわらず、現状の極めて非効率で発展性のない体制には大きなフラストレーションを感じるようになりました。それに、リーガルサービスやポータルサイトによるスポット頼みの経営では、いつか限界が来ることが目に見えていました。

 そこで、ほどなくして、同じような思いを抱いていた同期の弁護士とともに、共同事務所を設立することとなります。

 

 なお、よほど事件の多い弁護士でない限り、単独で事務局を雇用するのはオーバースペックと考えます。むしろ、ITの活用等によって事件処理事態を省力化したり、必要に応じて電話秘書等を活用することによって、経費を抑えたほうことが経営の安定につながるのではないでしょうか。
 ITの活用に関し、電子内容証明郵便の利用はマストと考えます。また、依頼者との連絡を極力電子メールにするとともに、窓付き封筒を活用することによって宛名書き等雑務を省きます。さらに、シュレッダー処理をやめ、機密文書溶解処理サービスを活用することによって時間の節約を図ることができます*4

 電話秘書のクオリティは、半端な事務職員より優秀かもしれません。月額1万円程度から利用でき、応答した内容は電子メールで即座に連絡してくれるので、留守の際などは大変重宝します*5


第4 共同事務所の設立準備

 さて、事務所を共同設立することとなる佐藤弁護士とは、司法修習の同期の間柄でした。彼もまた、私と同時期に千葉市中央区で独立開業し、それなりの見通しを持ちながらも、やはり私と同じような閉塞感を抱いていました。独立後、彼とは、千葉そごうのフードコートで週に数回、ランチミーティングと称して独立経営の孤独を分かち合っていましたが、ふとしたきっかけで私が共同経営を打診したところ、彼が応じてくれたのでした。

 そこから先は、とんとん拍子に話が進むこととなります。

 まず、新事務所を設立するのであれば事務職員が必要ということになり、求人を行うこととなりました。リーガルフロンティア21という法務専門の人材会社*6を利用したりもしましたが、結局、千葉県弁護士会に据え置かれていた履歴書を見て、現在の事務職員を採用することになりました。手前味噌ながら、極めて優秀な人材であり、たまたまこちらの条件と彼女の条件が合致したために幸運にも採用に至りました。なお、実際の加入は、新事務所設立の直前と決まりました。

 次に、新事務所の設立のため、オフィスを賃貸することになりました。千葉駅近辺のオフィス賃料の相場は坪単価1万円であり、将来的な拡大も見据えて20坪程度のオフィスを中心に当たりました。元々、私も佐藤も、顧客の利便性から駅チカにこだわっており、いくつかの候補の中から外観やフリーレント等の条件によって現在のオフィスを選びました。

 最も大変だったのは、内装工事とオフィス什器の選定です。

 まず、私達は内装工事・オフィス什器ともに、ほとんどオフィスコムという会社に一括して発注しました*7。理由は明快で、どこよりも安く、かつ、どこよりも融通が利いたからです。

 次に、法律事務所にとって最も重要となる什器は複合機ですが、私達は、多くの事務所で使われているレーザー式複合機ではなく、あえてビジネスインクジェット複合機を採用しました*8。理由は、安価で購入が可能であり、ランニングコストもレーザーよりはるかに安かったからです。

 なお、ファックスはインターネットファックスを採用しました。理由は、これもまた安かったからです*9

 電話はNTT東日本のひかり電話を採用しました*10。なお、当初はいわゆる光コラボの会社にしようと思っていたのですが、申込みから2か月以上経っても開通工事日が一向に決まらず、開業日に間に合わない事態になったため、急遽本家NTTに切り替えた次第です。光コラボを検討されている方は、くれぐれもご注意下さい。

 最後に、事務所ホームページは、ワードプレスというウェブサイト制作ソフトを使用して自作しました。費用は、専用テーマの購入に要した1万数千円のみです*11

 

 このようにして、工夫に工夫を重ねた結果、事務所設立費用は260万円程度(オフィス敷金、内装工事、オフィス什器等)に抑えることができました。これを2人で折半し、一人130万円程度です。多くの事務所が設立に300万円~500万円程度を要していることを考えると、これはかなりの節約になったと思っています。

 

 その他、TIPSを書き残しておきます。

 所内の意思疎通には、チャットワークというビジネスチャットサービスを利用しています*12

 メール、スケジューラー等は、Googleの提供するG Suiteを利用しています*13。普段から使用しているGmail、Googleカレンダーと同じ要領で操作できるため、極めて扱いやすく、また高機能です。

 独自ドメイン(ウェブサイト、メールアドレス等の@以下の表記)は、お名前.comというサービスで取得しました*14

 事務職員を雇用する場合、勤怠管理及び給与計算が必要となります。当事務所は、Clouzaというクラウドサービスで勤怠管理を行い*15、そのデータを人事労務freeeというサービスにインポートして給与計算を自動で行っています*16

 また、法定の作成義務を負うのは従業員10人以上の企業ですが、労務管理にあたっては就業規則を作成しておくことが望ましいです。当事務所は、市販の書籍に添付されているひな形をベースとして就業規則を作成しました*17

 挨拶状等を送る際の住所録は、筆まめクラウド住所録というサービスを利用しています*18

 経理はやよいの青色申告オンラインというサービスを利用しています*19

 その他、事務所ロゴや写真等は、ランサーズというクラウドソーシングサービスで発注しています*20。このうち印刷が必要なものについては、ネット印刷のプリントパックに発注しています*21

 経営、特にマーケティングのノウハウについては、2か月に1回、船井総合研究所の法律事務所経営研究会(2017年からは企業法務研究会)に出席して、情報収集をしています*22

 なお、事務所設立資金は全額自己資金で賄う必要はなく、適宜借入れを利用して全く問題ないと思います*23


第5 「新久総合法律事務所」の設立・経営

 さて、そのようにして、2016年4月27日に新久(シンク)総合法律事務所を設立しました。そして、5月23日に事務所開き(開所祝い)を実施しました。

 この事務所開きですが、可能な限り実施したほうが良いと思います。同業者を中心として周囲の方々から祝っていただくことができ、関係を深めるきっかけとなります。また、設立当初にお祝い金やお祝いの品をいただけることは本当に助かります。私達も様々な人にアドバイスをいただきながら事務所開きを開催し、たくさんの方からお祝い金・お祝いの品をいただきました*24。事務所開きに当たって注意することは、内祝いをしっかり用意することお寿司・ピザ・スナック菓子等を中心として料理・飲み物は十分な量を用意すること開催日は弁護士会の委員会・研修等に重ならないようにすること当日は知人に手伝いを頼むなどして人手不足にならないようにすること等でしょうか。

 

 事務所を設立した後も、半年間程度は日常的な経営の雑務に追われていた印象です。2017年に入り、とりわけ畠田弁護士(彼も司法修習同期の間柄です。)が加入してから、随分経営が楽になったように感じています(経費分担的にも)。

 当事務所は、地域の法人・個人事業主に対する顧問弁護士業務の拡大を主たる経営方針とし、1年余りで約30社にまで顧問先企業数を拡げてきました。そのようなマーケティングの過程等については、別記事においてお伝えしたいと思います。


第6 終わりに

 以上、取り留めなく書いてきましたが、曲がりなりにも順調に事務所を経営してこられたのは、いくつかの理由によるものではないかと思っています。

 まず、これから独立開業するのであれば、可能な限り複数弁護士による共同経営を選択すべきと考えます。経費負担を分散することができる上、規模感を印象付けることは顧客開拓においても極めて有利だからです。

 次に、弁護士だけでなく、事務職員の能力・才能の活用はもはやマストといえます。当事務所が存続してこられたのは、偏に優秀な事務職員たちのお陰であり、これからも彼女たちの才能を発揮できる体制・環境づくりに取り組んでいきたいと思っています。

 そして最後に、何よりも実感しているのは、「経営」とは極めてタフな作業であり、経営者は覚悟を持ってその作業に取り組まなければならないということです。現事務所を設立してからというもの、本記事に書ききれないほどたくさんの経営課題に直面してきました。しかし、前二者にも通ずるのですが、共同経営を選択し、かつ、事務職員が積極的に経営に参画してくれたからこそ、そのようなタフな経営課題を乗り越えてくることができたのだと思います。

 

 当事務所は、多様な専門性を有したパートナー弁護士を順次増員していくことで発展を目指しています。人数が増えることでますます経営は複雑性を増していくと思われますが、設立当初から培ってきた「スタッフ対等」の風土を大切にして、これからも課題に向き合っていきたいと思います。

 

 



*1:司法修習生の就職活動考 ~公募に頼らない就職活動~ http://odenya2.hatenadiary.jp/entry/2014/02/01/133541

*2:http://capital-bc.jp/

*3:https://www.bengo4.com/lawyer/

*4:https://www.otsuka-shokai.co.jp/products/ods/dispose/solution/meltybox.html

*5:http://www.central-eye.co.jp/

*6:http://www.lifr21.com/

*7:https://www.office-com.jp/

*8:http://www.epson.jp/products/bizprinter/pxm7050f/

*9:https://www.efax.co.jp/internet-fax-pricing/fax-pricing-compare/

*10:http://kakaku.com/bb/denwa/

*11:http://design-plus1.com/tcd-w/

*12:http://www.chatwork.com/ja/

*13:https://gsuite.google.co.jp/intl/ja/features/

*14:https://www.onamae.com/

*15:https://clouza.jp/

*16:https://www.freee.co.jp/hr/payroll-processing

*17:https://www.amazon.co.jp/%E5%B0%B1%E6%A5%AD%E8%A6%8F%E5%89%87-%E8%AB%B8%E8%A6%8F%E7%A8%8B%E4%BD%9C%E6%88%90%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB-6%E8%A8%82%E7%89%88-%E5%B2%A9%E5%B4%8E-%E4%BB%81%E5%BC%A5/dp/4539724479/ref=sr_1_3?ie=UTF8&qid=1502450326&sr=8-3&keywords=%E5%B0%B1%E6%A5%AD%E8%A6%8F%E5%89%87

*18:https://cloud.fudemame.jp/address

*19:http://www.yayoi-kk.co.jp/products/aoiro_ol/index.html

*20:http://www.lancers.jp/

*21:http://www.printpac.co.jp/

*22:http://www.funaisoken.co.jp/site/study/mfts_1182405822.html

http://www.funaisoken.co.jp/site/study/014599.html

*23:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/02_zyoseikigyouka_m.html

*24:なお、知人のアドバイスに従って、「ほしいものリスト」を作成・公開したところ、多くの皆様から品物を贈っていただくことができました。https://www.amazon.co.jp/gp/registry/wishlist/1GMIPH8DENNXO/ref=cm_wl_list_o_2?reveal=all&view=null