弁護ハック!-若手弁護士によるライフハックブログ

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司法試験関係者必読の一冊 『37の法律フレームワーク -誰も教えてくれない事例問題の解法-』

第1 はじめに

 同期の井垣孝之弁護士が書いた『37の法律フレームワーク -誰も教えてくれない事例問題の解法-』を読みました。

 結論から言うと、紛れも無い名著です。今年5月に受験を控えている方も含め、司法試験受験生であれば必ず目を通しておくべき一冊ではないでしょうか。

 井垣氏の「フレームワーク」論についてはかねてTwitter等を通じて聞き及んでいましたが、本書を読んで初めてその体系的な思索内容に触れました。そこで今回は、本書についてささやかながら書評を書いてみたいと思います。


第2 「基本」=「三大法律フレームワーク」

 本書の功績は、司法試験合格の必要条件とされる「基本」とは何かを徹底的に論じ、かつ、それを「フレームワーク」という用語を導入して共通言語化した点にあると考えます。

 ここでいう「基本」とは、「法的三段論法のフレームワーク」「利益衡量のフレームワーク」「原則-例外のフレームワーク」(以上を合わせて「三大法律フレームワーク」といいます。)のことであり、それ自体、目新しいものではありません。

 しかし、井垣氏が指摘するとおり、①法的三段論法をはじめとする基本的な法律フレームワークは、多くの学生の間で誤って理解されています。また、②かかる基本的なフレームワークの習得については、現在のところ個人のセンスと運任せとなっており、体系的な教育方法が確立していない点に問題があります

 以上の2点について、本書は、これまで暗黙知とされていた実務家の法的思考(ex.法的三段論法)を言語化(=形式知化)し、学生が正確に理解することを助けるとともに、そのような法的思考に「フレームワーク」という汎用語を用いることによって体系的な法学教育の基礎を築こうとしています

 その点において、本書は、司法試験受験生向けのノウハウ本であると同時に、それを超えて、わが国の「法学教育の方法論のモデルを提示する」という極めて野心的な目的を有しています


第3 教育書としての秀逸さ

 そして、上記の目的に鑑みて本書が素晴らしいのは、教育書としての普遍性を持ち得ているという点です。

 それはまず、本書の構成によるものです。本書を手に取る学生の多くは、未だ法律フレームワークを身に付けていない者でしょう。そのような読者に対し、本書は、具体例をふんだんに使用することによって、法律フレームワークを身に付けたときに見える世界を擬似体験させます。これによって、学生は法律フレームワークの存在を実感し、その世界に少しずつ足を踏み入れることができます

 他方で、本書は、法理学といった基礎法学の潮流をしっかり押さえ、大学教授をはじめとする教育者の批評に耐える内容となっています

 こうして、学生と教育者は、法律フレームワークの世界で出会うこととなるのです。


第4 終わりに

 法律フレームワークの詳細な内容については、実際に本書を手に取ってご自身の目で確かめていただきたいと思います。しかし、確実に言えることは、本書で論じられている法律フレームワークは、司法試験合格の必要条件であるとともに、日頃の法律相談などで用いる法曹実務家の思考方法そのものだということです。その意味で、本書が理論と実務をつなぐことを使命とする法科大学院教育の新たなスタンダードとなることを願ってやみません。

 なお、本書は法律フレームワークの世界への入口に過ぎず、本書を読むことによって直ちに法律フレームワークの"中身"が身に付くものではありませんあくまでそれは、個々の学生が学習を通じて身に付けなければならないものだからです

 もっとも、ひとたび法律フレームワークという着想を得ることによって、見える世界が変わってくることも確かです。その意味では、井垣氏が本書を通じて本当に伝えたかったことは、以下の記述に集約されるのではないでしょうか。

 

 法律フレームワークを使いこなせるようになるためには、特に三大フレームワークについては常に「あのフレームワークは使えないか?」という視点で講義を受けたり、基本書を読んだり、問題を解いたりすることが重要です。そうすると、学ぶ姿勢が自然と受動から能動へと変化しますから、脳の働き方ががらっと変わって記憶の定着率も高まります。本書の中の具体例から法律フレームワークが効く場面を抽出し、他の法律や、他の論点、さらには法律と関係のない場面でも使えないかという観点で、世界を眺めてみてください。

(本書p.401)


 忙しい方には、総論部分に相当する第1~5章及び第14章だけでも読むことをお勧めします。

 この国の法学教育を変えるかもしれない法律フレームワークの世界を、本書を通じて是非体験してみませんか?

 

 

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