弁護ハック!-若手弁護士によるライフハックブログ

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短答式の実践について【学生時代の記事の再掲】

 先々週の記事では、短答式の学習について述べました。そこで、今回はより実践的な視点から、短答式試験の分析をしてみたいと思います。

 

1.はじめに

(1) 短答式で要求されている二つのスキル

 ① 正確な基礎知識

 これは言うまでもないでしょう。先々週の記事で述べたところに従えば、主に条文と民集刑集掲載判例です。

 ② 読解力・論理的思考力

 見落とされているのはこちらです。

 

(2) なぜそのように考えるのか

 理由は二つあります。

 第一に、論文式試験においては、読解力・論理的思考力が明らかに問われているからです。形式こそ違えど、同じ「試験」である以上、求める能力に違いはないはずです。

 第二に、知識だけでは選抜にムラが出てしまうからです。これは旧「試験」の末期以来の傾向ですが、「試験」委員会は知識偏重型の選抜をあの手この手で避けようとしています。新「試験」の論文式はもちろんのこと、短答式試験においてもこの方針は受け継がれているはずです。

 

(3) 正答率を上げるために

 以上を前提とすると、① 基礎知識と、② 読解力・論理的思考力の両方をフルに活用することが、正答率アップの近道だということになります。今回の記事は、後者(②)の活用を勧めるものです。

 

2.総論

 

 [第4問](平成23年度民事系)

 代理人の権限に関する次のアからオまでの各記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

 ア.成年後見人は、成年被後見人の意思を尊重しなければならないが、成年被後見人の財産に関する法律行為を代理するに当たって、成年被後見人の意思に反した場合であっても、無権代理とはならない。

 イ.父母が共同して親権を行う場合、父母の一方が、共同の名義で子に代わって法律行為をしたとしても、その行為が他の一方の意思に反していることをその行為の相手方が知っているときは、他の一方は、その行為の効力が生じないことを主張することができる。

 ウ.委任による代理人が、やむを得ない事由があるため復代理人を選任した場合には、復代理人はあくまで代理人との法律関係しか有しないので、復代理人の行為が本人のための代理行為となることはない。

 エ.判例によれば、親権者が子の財産を第三者に売却する行為を代理するに当たって、親権者がその子の財産に損害を及ぼし、第三者の利益を図る目的を有していたときは、その子の利益に反する行為であるから、無権代理となる。

 オ.委任による代理人は、未成年者でもよいが、未成年者のした代理行為は、その法定代理人が取り消すことができる。

1.ア イ 2.ア エ 3.イ オ 4.ウ エ 5.ウ オ

 

(1) 読解の方法を確立する

 下線の引き方等を予め決めておくといいと思います。

 私の場合は、

 下線・・・解答上意味のある記載

 斜線・・・文節の境目

 □囲み・・・重要な法律用語、論理を示す語、肢の結論部、問い

 括弧・・・挿入句

 というように、鉛筆を使いながら読み進めていきます。

 

 具体的には(□囲み部分は赤字で表記)、

 

 代理人の権限に関する次のアからオまでの各記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

 ア.成年後見人は、/成年被後見人の意思を尊重しなければならないが、/成年被後見人の財産に関する法律行為を代理するに当たって、/(成年被後見人の意思に反した場合であっても、)/無権代理とはならない

・・・(以下略)・・・

 

 このように分析的に肢を読んでいくと、問題の所在がはっきりします。読み間違い等のうっかりミスも減らすことができます。

 

(2) 論理的に解答を導く

 正誤のわかった肢を足掛かりにして、解答を導きます。この点については、問題類型ごとの違いがあるため、各論に譲ります。

 

3.各論

 短答式で出題される3つの主な問題類型ごとに検討していきます。3つの類型とは、① 組み合わせ型、② 単純選択型、③ 全部一致型、を指します。

 

(1) 組み合わせ型

 [第4問](平成23年度民事系)

 代理人の権限に関する次のアからオまでの各記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

 ア.成年後見人は、成年被後見人の意思を尊重しなければならないが、成年被後見人の財産に関する法律行為を代理するに当たって、成年被後見人の意思に反した場合であっても、無権代理とはならない。

 イ.父母が共同して親権を行う場合、父母の一方が、共同の名義で子に代わって法律行為をしたとしても、その行為が他の一方の意思に反していることをその行為の相手方が知っているときは、他の一方は、その行為の効力が生じないことを主張することができる。

 ウ.委任による代理人が、やむを得ない事由があるため復代理人を選任した場合には、復代理人はあくまで代理人との法律関係しか有しないので、復代理人の行為が本人のための代理行為となることはない。

 エ.判例によれば、親権者が子の財産を第三者に売却する行為を代理するに当たって、親権者がその子の財産に損害を及ぼし、第三者の利益を図る目的を有していたときは、その子の利益に反する行為であるから、無権代理となる。

 オ.委任による代理人は、未成年者でもよいが、未成年者のした代理行為は、その法定代理人が取り消すことができる。

1.ア イ 2.ア エ 3.イ オ 4.ウ エ 5.ウ オ

 

ア 「捨て肢」という概念

 解答(1.)を導く道筋として、次の4つが考えられます。

 アが○、イが○、とわかる(論理的に答えは1.)、

 アが○、エが×、とわかる(蓋然性から答えは1.)、

 イが○、オが×、とわかる(蓋然性から答えは1.)、

 ウが×、エが×、オが×、とわかる(論理的に答えは1.)。

 このように見ると、「ウ.」の肢は、エ、オが共に×であることが判明しない限り、解答に役立たないことがわかります。また、この場合、論理的にア、イは○となるので、全ての肢の正誤が判明しない限り使えない肢、と言い換えることもできます。

 この「ウ.」のような肢を便宜上「捨て肢」と呼びます。

 

イ 肢を読む順序

 捨て肢が解答に役立たないのであれば、時間の制約上、捨て肢を読むことはなるべく避けるべきです。したがって、「捨て肢」率の最も低い肢から順に読んでいくことが効率的と言えます。

 「捨て肢」率の解明のために、過去問を使って統計を取りました。その結果、「捨て肢」率の低い順に、イ→オ→ウ→ア→エ、となります。肢はこの順序で読んでいくことが(理論的には)効率的ということになります。

 

(2) 単純選択型

 

 [第3問](平成20年度民事系)

 行為能力に関する次の1から5までの各記述のうち、誤っているものはどれか。

 1.共に18歳の夫婦が自分たちだけで決めて行った離婚は、取り消すことができない。

 2.成年被後見人が、後見人の同意を得ずに電気料金を支払った行為は、取り消すことができない。

 3.被保佐人が、保佐人の同意を得ずに、貸付金の弁済を受けた行為は、取り消すことができる。

 4.補助開始の審判がされる場合においても、補助人は当然に代理権を付与されるわけではない。

 5.被保佐人が取り消すことのできる行為を行った場合、その相手方は、被保佐人に対して、保佐人の追認を受けるべき旨の催告をすることができるが、保佐人に直接追認するか否かの回答を求める催告をすることはできない。

 

 単純選択型問題は、組み合わせ問題のように論理を使って解答を導くことができないため、一見難しいように見えます。しかし、肢の中に明白なものが含まれていることが多いのが単純選択型問題の特徴です。上記の例で言えば、「5.」の肢です。

 したがって、難しい肢は大胆に飛ばして、明白な肢を探しましょう。それが解答の足掛かりになるはずです。

 

(3) 全部一致型

 

 [第3問](平成20年度公法系)

 「公共の福祉」に関する次のアからウまでの各記述について、それぞれ正しい場合には1を、誤っている場合には2を選びなさい。

 ア.憲法第13条の「公共の福祉」は、人権の外にあって、すべての人権を制約する一般的な原理であり、憲法第22条、第29条が特に「公共の福祉」を掲げたのは、特別な意味を有しないという見解がある。しかし、このような見解では、「公共の福祉」が極めて抽象的な概念であるだけに、人権制限が容易に肯定されるおそれが生じ、ひいては「公共の福祉」が明治憲法の法律の留保のような機能を実質的に果たすおそれがある。

 イ.「公共の福祉」にって制約される人権は経済的自由権社会権に限られ、その他の権利・自由には内在的制約が存在するにとどまり、憲法第13条は公共の福祉に反しない限り個人に権利・自由を尊重しなければならないという、言わば国家の心構えを表明したものであるという見解がある。しかし、このように同条の法規範性を否定する見解は、プライバシー権などの「新しい人権」を憲法上の人権として基礎付ける根拠を失わせる。

 ウ.すべての人権に論理必然的に内在する「公共の福祉」は、人権相互間に生じる矛盾・衝突の調整を図るための実質的公平の原理であり、例えば、社会権を実質的に保障するために自由権を制約する場合には必要な限度の規制が認められるという見解がある。しかし、この見解では、憲法第22条、第29条の「公共の福祉」が、結局、国の経済的・社会的政策という意味でとらえられることになり、広汎な裁量論の下で経済的自由権社会権の保障が不十分になるおそれがある。

 

ア 読解力の重要性

 上記の例の場合、「ア.」と「イ.」が正しいことは容易にわかります。これに対し、多くの人が迷うのが「ウ.」だと思います。全部一致型問題は、全ての肢の正誤がわからない限り完全な得点とならないため、一般に難しいとされます。

 しかし、問題形式が難しい以上、肢の内容が容易でなければ他の問題形式との均衡が取れません。

 そのため、全部一致型問題の肢は、文章を注意深く読めば解答可能な肢に出来上がっているといえます。上記の「ウ.」で言えば、前段では「すべての人権に」「内在する」「実質的公平の原理」だと述べておきながら、後段では「憲法第22条、第29条の『公共の福祉』」は「国の経済的・社会的政策」、すなわち外在的制約だとして、概念のすり替えが生じています。したがって、「ウ.」は誤っています。

 

イ 統計的手法の利用

 また、上記の例の場合、論理的には2×2×2=8通りの解答があり得ます。しかし、過去問(平成18年~平成23年)で統計を取ってみると、必ずしも8通りの解答は同じ確率で現れてはいません。

 すなわち、上記の例のように3つの肢の正誤が問題となる場合、全ての肢が「誤っている」ものは、過去問を通じて9つ見られるに過ぎません。さらに、全ての肢が「正しい」ものは、過去問を通じて1つしか存在しません。

 また、4つの肢の正誤が問題となる場合、全ての肢が「誤っている」ものは、過去問を通じて2つ見られるのみであり、全ての肢が「正しい」ものに至っては皆無です。

 このような統計を参照すると、上記の例の場合、「ア.」と「イ.」が正しいとわかった時点で、「ウ.」は少なくとも蓋然性のレベルでは誤っているものと推定できるわけです。

 

4.終わりに

 記事自体が長い上に、あまりに多くの内容を詰め込んだため、文意が上手く伝わらなかったかもしれません。

 しかし、繰り返し述べておきたいことは、① 基礎知識に加えて読解力・論理的思考力が問われていること、② 読解力・論理的思考力の用い方は、短答式一般に通じることもあるが(読解の方法など)、多くの場合問題類型ごとの準備が必要であること、③ 問題類型ごとのトレーニングとして過去問中心の勉強をすべきであること、です。

 いま一つ釈然としない方には、試しに過去問を1年分解き、間違えた問題についてその原因を検証してみることをお勧めします。自分で思っていた以上に知識以外のミスが多いことに気付くはずです。

 そのミスを全て得点に変えることができたら・・・?知識を増やすよりも、得点を伸ばす近道ではないでしょうか。